欧州委のバルニエ首席交渉官、ブレグジットめぐり「準備怠るな」と警鐘

(EU、英国)

ブリュッセル発

2019年10月31日

欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官は10月30日、欧州経済社会評議会(EESC)で講演PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を行い、英国のEU離脱(ブレグジット)をめぐる現状認識を明らかにした。同首席交渉官は、大企業と中小企業との準備状況に大きな開きがあることを指摘、特に、中小企業の準備継続の必要性を訴えた。また、(再延期された新たな離脱期限である)2020年1月末に合意なき離脱に陥るリスクに加え、2020年12月末にも同じリスクが残る点を強調し、「慢心している時間はない」と注意喚起した。

今後の状況次第では合意なき離脱のリスクがあると警告

バルニエ首席交渉官は、EESCでの演説の様子を投稿した同日付のツイッターで、「離脱協定が承認され次第、直ちに野心的な(英国との)将来関係についての交渉に着手する」と今後の展望を述べた。ただ演説では、12月12日に予定されている英国での総選挙の結果など、不確定要素が残されていることも念頭に、厳しい現状認識を示した。

離脱協定案がEU・英国双方の議会で承認され、英国の離脱とともに発効した場合、2020年末まではビジネス環境の激変緩和策として移行期間が設けられ、その間、英国では実質的に離脱前と同じビジネス環境が維持される。ただ、同首席交渉官は、仮に2020年1月31日までに離脱協定案が承認されたとしても、「2020年12月31日までにEU・英国間の将来関係にかかる新たな協定を発効させられない場合、移行期間が延長されない限り、合意なき離脱に陥る」と警告する。

北アイルランドの特殊な地位への実務上の対応も課題

他方、同首席交渉官は、EU・英国間で新たに合意した「ブレグジット以降の英領・北アイルランドの特殊な地位」について言及。「グレートブリテン島から北アイルランドに出荷される玩具」を例として、以下の対応が発生する点を強調した。

  • 当該貨物(玩具)が北アイルランドに到着した場合、英国当局は、EUルールに基づいて当該貨物に関わる通関申告が行われ、玩具の安全性について検査が行われたことを確認しなければならない。
  • 当該貨物(玩具)がEU単一市場に輸出される可能性がある場合、EUの関税が適用される。
  • 欧州司法裁判所の管轄の下、北アイルランドには引き続き、EUの国家補助および付加価値税(VAT)ルールが適用される。

なお、離脱後のEU・英国間の将来関係に関しては、欧州委員協議会が10月22日に「英国との関係に関するタスクフォース(UKTF)」を立ち上げており、バルニエ首席交渉官はそのトップに任命されている。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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