資本・ヒトの流入による国内不安定化が改革のリスク

(ウズベキスタン、ロシア)

タシケント発

2019年10月08日

2017年に開始され、現在も急ピッチで改革が進むウズベキスタン。モスクワ国際関係大学(MGIMO)の中央アジア・アフガニスタン問題研究センター所長で、リスク分析が専門のアンドレイ・カザンツェフ氏は、同国の経済改革は「機が熟したもの」であり、外的なリスクが治安を脅かさない限り改革は継続するとみる(インタビューは9月27日)。

(問)ウズベキスタンの改革は「機が熟したもの」と考える理由は。

(答)カリモフ前大統領時代の末期にウズベキスタン経済は厳しいものになっていた。統計は信用できず、財政は厳しく、政府部門の給与未払いなどが発生していたのを知っている。ソ連的な経済モデルを維持しつつ、東南アジア諸国のような輸出型経済を志向した結果、産業は残ったが、市場の需給を無視したいびつな経済構造となっていた。地方の経済的貧困も大きな問題だった。こうした中で、改革への準備はなされていたものの、周辺の政治的状況が国を開くことを許さない状況だった。しかし、ミルジヨエフ大統領の登場と国際情勢の大きな変化で、経済改革派が治安重視派より優勢になり、改革へとかじを取ることができた。

(問)改革継続へのリスクは。

(答)政権にとって一番のリスクは治安の不安定化だ。経済を開放することでモノや資本が流れ込む半面、中東・アフガニスタンなどから過激思想や違法薬物などが入り込む可能性もある。その兆候があれば、再び資本・ヒトの流れを制限する方向になる可能性はある。そうでなければ、改革は継続し(ミルジヨエフ大統領の任期が終了する)2021年までに資本の自由化、近隣諸国との良好な関係の維持、対ロシア・欧米との関係改善などがさらに進むだろう。

(問)対ロシア経済関係の今後は。

(答)ロシアはウズベキスタンに対し当然ながら経済的な関心がある。エネルギー分野では、ロシアのルクオイルやガスプロムが長年資本を投下している。原子力発電所の建設も開始される。対ロシア制裁措置で欧州からロシアへは食品が入らず、ウズベキスタンからの野菜や果実の供給量は大幅に伸びている。インフラ・輸送・通信分野などでの投資も可能性がある。一方で、ロシア企業は全般的にウズベキスタンでの事業環境に不慣れだ。歴史的にロシア企業は原材料の輸出には慣れているが、中小企業による市場開拓・輸出の歴史は長くない。ただし、欧米日系企業の在ロシア販売代理店などは言語の共通性(ロシア語)などを利用し、機械・設備などの販売、サービスの提供を伸ばしていくだろう。

(問)ロシアが主導するユーラシア経済連合(EEU)へのウズベキスタンの加入はあり得るか。

(答)ウズベキスタンがEEUのメンバーになることはない。ウズベキスタンの外交の原則は「いかなる義務も負わないバランス外交」であり、欧米と対立するロシアの経済連合に入ることはないからだ。CIS諸国との間では既に自由貿易協定(FTA)があり、欧米、ロシア、中国などとの現在の均衡をあえて崩す必要性はない。

写真 アンドレイ・カザンツェフ氏。2000年からモスクワ国際関係大学に勤務。高等経済院、イタリアとドイツの研究機関などでも勤務経験も持つ(ジェトロ撮影)

アンドレイ・カザンツェフ氏。2000年からモスクワ国際関係大学に勤務。高等経済院、イタリアとドイツの研究機関などでも勤務経験も持つ(ジェトロ撮影)

(高橋淳)

(ウズベキスタン、ロシア)

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