全国賃金評議会の2019/2020年度ガイドライン、景気減速で労働者再教育を強調

(シンガポール)

シンガポール発

2019年06月06日

政労使の代表で構成する全国賃金評議会(NWC)が5月30日に発表したシンガポールの2019/2020年度(2019年7月1日~2020年6月30日)の賃金ガイドラインは、景気が減速見通しであることをにらみ、全ての雇用主に対し、労働者の研修受講を通じた再教育と労働生産性の向上を強く求める内容となった。貿易産業省(MTI)は同月21日、世界経済を取り巻く環境の悪化を受け、2019年通年のGDP成長率の予測幅を「1.5~2.5%」と下方修正した(2019年5月28日記事参照)。

NWCは、人材省、全国労働組合会議(NTUC)、シンガポール国家雇用者連合(SNEF)と日本を含む外国商工会議所などの代表で構成され、景気や雇用市場の動向、経済見通しなどを勘案して、その年度の賃金改定の指針となるガイドライン(注)を毎年発表している。

業績と見通しに応じた給与ガイドラインを勧告

NWCは、今回のガイドラインでも前年度の勧告と同様、個別企業の経営業績と見通しの状況に応じた3つの個別ガイドラインを設定した。(1)業績と今後の見通しがともに好調な企業に対し、ベースアップと、業績に応じて変動可能な可変給の支給の両方を勧告した。また、(2)業績が良くても今後の見通しが不透明な企業に対しては、ベースアップについては慎重な姿勢を勧める一方、業績に応じた可変給の支給を求めている。一方、(3)業績も見通しも厳しい企業に対しては、特に経営幹部を中心に賃上げの抑制を勧告した。ただ、2018年に労働生産性の改善を達成できた雇用主に対しては、一時金でその恩恵を還元するよう求めた。

低所得者層の基本月給の下限を1,400Sドルに引き上げ

このほか、NWCは今回、勧告対象となる低所得者層の基本月給の下限をこれまでの1,300シンガポール・ドル(約10万2,700円、Sドル、1Sドル=約79円)から、1,400Sドル(約11万600円)へと引き上げた。同評議会は2012年以来、毎年、低所得者層の所得を底上げするため、賃上げで具体的な数値目標を設定している。NWCは、月給1,400Sドル以下の労働者に50~70Sドルのベースアップを提言。また、2018年に労働生産性を向上できた雇用主に対しては、月給1,400Sドル以下の労働者に200~360Sドルの一時金の支給を勧告した。さらに、月給1,400Sドルを上回る労働者については、そのスキルと生産性に応じた適正な賃上げか、一時金、またはその両方の支給を勧告している。

(注)NWCの勧告の全文は人材省のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。

(本田智津絵)

(シンガポール)

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