ロシア政府、原子力発電の水処理分野でも輸入代替を推進

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2019年04月15日

ロシアの輸入代替政策(注1)を推進する政府系機関「産業発展基金(FRP)」は4月9日、シベリア連邦管区ケメロボ州-クズバス(2019年3月28日記事参照)のケメロボ市にある工業用樹脂メーカーのトケムが、イオン交換樹脂の生産を開始したと発表した。

イオン交換樹脂は、イオン交換現象(注2)を利用して、水などの液体物からの物質除去・精製・回収・触媒・分解などに用いられる素材で、多様な産業分野(水処理、食品、環境、化学など)で使用されている。原子力発電分野では原子炉用冷却水の水処理などに用いられるが、FRPによると、ロシアでは2007年に同用途向けのイオン交換樹脂の(国内での)大規模製造が終了しており、それ以降はロシアで「戦略的産業分野」とされる原子力発電所、原子力船、熱エネルギー、化学、冶金(やきん)産業などではイオン交換樹脂が輸入品に切り替えられている。ロシアの2018年のイオン交換体(HSコード391400)の輸入額は日本に次ぎ世界7位となる5,380万1,223ドル(輸入量では世界4位の1万3,998トン)で、主に中国(約50%)、ドイツ(12%)、フランス(12%)などから輸入している(図参照)。

図 ロシアのイオン交換体(HS:391400)輸入実績(金額ベース)

FRPは2018年、国内市場でのイオン交換樹脂の外国依存度を引き下げるため、トケムに対し生産設備の導入を提案すると同時に、導入費用の2分の1に当たる1億ルーブル(約1億7,000万円、1ルーブル=約1.7円)の融資を決定した。トケムが残り2分の1を負担するかたちで生産ラインの改修が行われ、工業用樹脂(イオン交換樹脂の半製品を含む)製造能力が2倍の年間1万2,000立方メートル、イオン交換樹脂の製造能力は3.5倍の年間1,380立方メートルに増加した。新製造ラインの稼働により、ロシア国内の原子力発電向けのイオン交換樹脂需要の約90%を同社製品で賄うことができるという。また、製品の12%を近隣諸国(ベラルーシ、カザフスタン、ウズベキスタン、アゼルバイジャン、キルギス)、フィンランド、中国、韓国、米国、イランなどに輸出することも検討している。

ロシア政府は、国営原子力会社ロスアトムを通じて、国内での原子力発電所能力の増強(2019年1月15日記事参照)、原子力発電プラントの輸出(2018年7月6日記事参照)などに積極的に取り組んでいる。今後、ロスアトムが管理・運営する原子力発電所などでは、トケム製イオン交換樹脂の採用が優先的に進むことも想定される。

(注1)輸入に依存している製品を、ロシア国内での生産に置き換える政策。

(注2)物質が持っていた特定のイオン成分を放出する一方で、別のイオン成分を取り込む現象のこと。

(高橋淳)

(ロシア)

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