カナダ政府代表ら、新NAFTAの自動車原産地規則を解説

(カナダ、米国、メキシコ)

米州課

2019年01月31日

在日カナダ大使館は1月21日、グローバル連携省(Global Affairs Canada)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますシニアアドバイザーでカナダ政府代表の原産地規則の交渉官であるマーティン・ソーネル氏とカナダ自動車部品製造業協会(APMA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのフラビオ・ボルペ会長を招き、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA、新NAFTA)と、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)の自動車原産地規則に関するセミナーを東京で開催した。

ソーネル氏はまず新NAFTAの交渉を振り返り、米国側が2017年10月の会合でトレーシングリストの拡大や、域内原産比率(RVC)の62.5%から85%への引き上げとともに、米国製部材の50%使用などを求めてきたが、カナダにとっては米国製部材の提案は受け入れられるものではなかったと述べた。新NAFTAで合意した自動車分野の原産地規則として、(1)RVCの62.5%から75%への引き上げ、(2)エンジン、変速機、車体、車軸、ステアリング、サスペンションシステム、リチウムイオン電池の重要7部品のRVC75%基準(リチウムイオン電池のみ関税分類変更基準も使用可)、(3)完成車メーカー(OEM)が購入する鉄鋼・アルミニウムのそれぞれ70%以上は北米(カナダ、米国、メキシコ)原産、(4)平均時給16ドル以上の工場で40%以上(乗用車)が生産される労働付加価値割合(LVC)の導入の4点を挙げた上で、ソーネル氏は「トレーシングリストは廃止になるが、純費用(ネットコスト)方式や(RVC計算での)アベレージングは残る」と指摘した。

また、上記(2)の重要7部品RVC75%の計算方法に関し、ソーネル氏は、(a)表中のコラム1にある各重要部品でRVC75%を満たせばよいが、(b)満たない場合はコラム2に記載されている構成部品のみでRVCを計算、(c)コラム1にある7重要部品を合算後にRVCを平均して計算、(d)コラム2に記載されている全構成部品を合算してRVCを平均して計算、の4通りあり、(d)の方法が一番柔軟性があり、この計算方法で達成できない場合は他の方法でもRVC達成は難しいと述べた。

表 乗用車、ライトトラックの重要7部品と構成部品リスト

他方、(3)鉄鋼やアルミニウムの70%以上の北米原産は分かりやすく、同一の自動車メーカーが購入した鉄鋼やアルミニウムの70%以上が北米原産であれば問題ないが、鋼材としてのアルミニウムの仕様が定義されていないので、今後統一規則が作成されるまでに規定されるだろうと発言した。

写真 講演するマーティン・ソーネル・シニアアドバイザー(ジェトロ撮影)

講演するマーティン・ソーネル・シニアアドバイザー(ジェトロ撮影)

鉄鋼・アルミへの追加関税は新NAFTA発効までに適用除外との見通し示す

ボルペ会長は新NAFTA協定の3国での批准の見通しについて触れ、カナダとメキシコでの議会手続きのハードルは低いが、米国では、2018年11月の中間選挙で下院を奪還した民主党が労働条項での修正を求めていることから、手続きは難航が予想されると指摘した。ただ、トランプ大統領は、USMCAの議会での早期批准承認を目的にNAFTAからの脱退を示唆するとともに、自動車産業界はUSMCAの合意内容を支持していることから、米国議会でも「最終的には承認されるだろう」との見通しを示した。

また、米国はカナダとメキシコに対して、鉄鋼・アルミニウム製品に追加関税を課しているが、ケベック州はアルミニウムの主産地であり、カナダ産のアルミニウムを利用しないと北米原産70%の達成は不可能なので、USMCAが発効されるまでには両国への適用は除外されるだろうと述べた。

写真 講演するフラビオ・ボルぺ・カナダ自動車部品製造業協会(APMA)会長(ジェトロ撮影)

講演するフラビオ・ボルぺ・カナダ自動車部品製造業協会(APMA)会長(ジェトロ撮影)

質疑応答では、OEMやサプライヤーの部品メーカーは鋼材を購入しているが、全てが北米原産の計算対象となるのかとの質問に対し、ソーネル氏は「OEMが購入した分だけだが、OEMが集中購入した鋼材の使用をサプライヤーなどに指示した場合にはその分も対象に含まれる」と述べた上で、詳細については統一規則を今後詰めていかなければならないと述べた。

(小山勲、中溝丘)

(カナダ、米国、メキシコ)

ビジネス短信 f39c669af33c8388