自由で公正な貿易に向けて討論、ジェトロ60周年記念シンポ

(世界)

国際経済課

2018年11月13日

11月8日に開催されたジェトロ創立60周年記念の国際シンポジウムは、パネルディスカッションで、「自由で公正な貿易に向けて」をテーマに、「主要先進国の役割」と「アジアの役割」について、通商の専門家による議論が行われた。

中国の貿易政策に懸念も

前半のパネルディスカッション「主要先進国の役割」では、パネリストに元経済再生担当相の甘利明衆議院議員、元米国通商代表のシャリーン・バシェフスキー氏、前駐日欧州ビジネス協会(EBC)会長のダニー・リスバーグ氏が登壇し、米国中間選挙(11月6日)結果も交えながら、これからの貿易体制について議論を交わした。日本経済新聞の太田泰彦編集委員兼論説委員が討論を進行した。

米国離脱後の環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉に日本が果たしたリーダーシップについて、太田氏からの質問に答え、甘利議員は「日米がつくりあげた価値観を普遍的なものにしたかった。TPPは、先進国とルール形成が追いついていない途上国が一緒になり、共通のルールで世界をリードするという高い野心を一致させたことが、成功へ導いた原動力」と語った。また、バシェフスキー氏は中国の保護主義について「TPPとEU圏でグローバルGDPの60%を占める今日、中国一国のみで通じるルール形成の動きは中国自身にとっても厳しい状況を招く」と、主要国間での共通理解の醸成を促した。一方、リスバーグ氏は「デジタルエコノミーは市場主導であり、中国市場を抜きに語れない」とし、透明性の高い国際貿易体制の重要性を示唆した。

続く後半の「アジアの役割」では、デジタルエコノミーについて活発な議論が展開された。パネリストに元WTO代表でタイ取引競争委員会委員のクリッサダー・ピアムポンサーン氏、中国国際経済交流中心首席研究員の張燕生氏、深尾京司ジェトロ・アジア経済研究所長が登壇、ジェトロの佐藤百合理事が進行役を務めた。

張氏は、11月5~10日に上海で開催の中国国際輸入博覧会で多数の外国企業の参加があったことを挙げ、企業が現状を保護貿易とは捉えていないとの見解を示した。中国企業も主導してプラットフォーム化を進めるデジタル経済について、「ルールづくりが先か、新しい経済がもたらす利益を優先させるか議論が必要」と述べ、先進国が求めるルール化と実体経済とのすり合わせが必要と主張した。それに対し、ピアムポンサーン氏は「デジタル化を含め、世界的な課題を話し合う場が必要」と、ASEAN+(プラス)6の枠組みに期待を示した。

また、深尾所長は、対日投資の受け入れ拡大や日米構造協議を経ながら、国際的なルールと調和してきた日本の戦後貿易体制に触れ、「ジェトロは時代の変化とともに大きな役割を果たしてきた」と語った。

最後に、ジェトロの赤星康副理事長は閉会あいさつで、参加者および登壇者、関係機関への謝辞とともに、本シンポを通じ、今後の世界貿易の展望、自由貿易推進へ向けた日米欧やアジアの役割が明確に示された旨を指摘した。

写真 パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

(伊尾木智子)

(世界)

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