W杯の成果を総括、地方のインフラ活用が課題

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2018年07月26日

プーチン大統領は7月19日に閣僚会議を開催し、6月14日~7月15日に開催されたサッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会の成果を総括した。国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティノ会長が「世界のロシアへの認識を変えた」と評するなど開催は成功とする一方、経済効果を長期的に維持するためには、地方都市のインフラの有効活用がカギとみられている。

会議でのオリガ・ゴロジェツ副首相の報告によると、W杯には約300万人の外国人観戦客が入国し、このうち入国査証の代わりとなる身元証明書「ファンパスポート(ファンID)」の発給件数は80万6,000件に上った。また269の関連施設が建設され、ロストフ・ナ・ドヌ(ロシア南部)で空港が新設されたほか、他の都市でも補修により旅客処理能力がボルゴグラードで3倍、エカテリンブルク、サマラ、サランスクで2倍に増加した。ロシア鉄道は75の車両を調達し、13のターミナル駅、7つの駅の補修を行った。95のトレーニング場のうち65カ所は子供用サッカー場として利用され、他の施設の用途は政府内で協議する。「ファンID」制度は今後もスポーツ・文化行事に適用する予定としている。

W杯は一定の経済効果をもたらした。銀行最大手のズベルバンクによると、期間中に外国人が同行の決済システムを通じて消費した金額はホテル・外食サービスや交通、小売りを中心に15億ドルと前年同期の2倍となった。経済発展省は7月19日に発表した経済活動報告で、6月の小売売上高が前年同月比3.0%増と前月に比べ0.6ポイント伸びたとして、W杯の経済効果などと説明した。ロシア旅行業協会のマイヤ・ロミゼ事務局長は、GDPの1%に相当する8,500億ルーブル(約1兆5,300億円、1ルーブル=約1.8円)の経済効果がもたらされ、22万人の新規雇用が生まれたとコメント。モスクワのセルゲイ・ソビャニン市長もW杯で同市の税収が130億ルーブル増加したと述べた。

今後の課題は6,830億ルーブルとされる開催費用の回収と、モスクワ、サンクトペテルブルク以外の地方開催都市での経済効果の維持だ。連邦大統領付属国民経済行政学アカデミーのナタリア・ズバレビチ主任研究員は、スタジアムの建設費用回収には高い入場料で頻繁にイベントを催す必要があり、経済効果への評価は数年先とする。旅行業協会のロミゼ氏は「(外国人向けの観光資源がない)ニジニ・ノブゴロド、ボルゴグラード、サランスクは深刻な問題が起きる可能性がある」と指摘している。

(市谷恵子、高橋淳)

(ロシア)

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