不信任案可決で中道左派のサンチェス政権に交代

(スペイン)

マドリード発

2018年06月04日

マリアノ・ラホイ民衆党(PP、中道右派)政権に対する不信任案が6月1日に下院で賛成180票、反対169票、棄権1票で可決され、最大野党・社会労働党(PSOE、中道左派)のペドロ・サンチェス書記長が新首相に選出された。サンチェス新首相は翌2日に首相就任の宣誓を行った。不信任案可決による政権交代は民主化後初めて。

不信任案は、民衆党の元財務責任者を中心とした大規模な汚職裁判で有罪判決が下され、公共事業に絡む汚職への与党の組織的関与が明らかになったことを受け、社会労働党が提出。ポデモス党など左派勢力、独立問題で対立するカタルーニャ民族主義勢力が同調したが可決に必要な過半数に届かず、当初は否決される公算が大きかった。

ところが、2018年予算案を下院で支持したばかりのバスク民族主義党(PNV)が土壇場で、「ラホイ政権の不安定はもはや決定的」と賛成に回ったことで賛成票が過半数に転じ、予想外の政権交代となった。

ねじれ国会や自治州権限要求など不安定要因に

新政権は今週中にも発足する予定だが、社会労働党は他党との連立構想はないとしている。同党の下院議席数は前与党を50議席下回る84議席で、厳しい政権運営となる。

現在審議中の予算案は前政権のものを引き継ぐが、民衆党は過半数を制する上院で大幅な修正を加える意向を示唆しており、「ねじれ国会」による審議の長期化が予想される。

また、EUの財政規律を脱した経済政策を求めるポデモス、現行憲法の枠組みを超えた権限拡大を求める民族主義政党からの要求に折り合いを付けつつの政権運営は困難を極めるとみられる。

カタルーニャ州のジョアキム・トラ首相(2018年5月15日記事参照)は、政権交代の可能性が濃厚となるや否や閣僚名簿を発表し、6月2日の政権発足をもって自治権停止が解除された。

サンチェス新首相は、「まずは政治的安定、危急の社会問題に対応。次に総選挙」と公約しており、早期の総選挙は遠のいた。早期実施を主張するのは、直近の世論調査で一人勝ち状態の市民党(C’s)のみで、同党の躍進を懸念する他党は先送りを望む。同党は、PSOEが早期の総選挙実施を約束しなかったため、不信任案には反対した。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

ビジネス短信 ffab009bb8d2fdfb