2国間協定の深化をてこに貿易拡大目指す-中南米主要国の通商政策と地域統合をめぐる動き-

(アルゼンチン、メキシコ)

ブエノスアイレス発

2018年03月20日

アルゼンチンとメキシコにおいては、経済補完協定(ACE6号)が1987年から発効している(現行協定としては2007年1月に発効)。マクリ大統領の就任および同政権の積極的な海外市場へのアプローチ方針から、ACE6号については2016年11月以降、拡大・深化に向けた協議が重ねられており、2018年2月に第4ラウンドが開催された。アルゼンチン側が期待するのは、メキシコの農産品市場へのアクセス拡大だ。北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の行方が不透明なことから協議がまとまらないとの指摘もあるが、両国の経済強化に向けた方向性は共通しているとみられる。

ACE6号の深化へ協議を継続

アルゼンチンとメキシコとの間においては、部分的到達・経済補完協定(AAP-CE)第6号が1986年に署名、翌年に発効し、その後、特恵関税対象品目の拡大などの交渉を行った結果、2006年に第15回追加議定書を取り交わし、現行協定として2007年1月に発効した。アルゼンチンのマクリ大統領とメキシコのペニャ・ニエト大統領の間で協定の深化について協議を開始することに合意し、2016年11月にメキシコ市で第1ラウンドが開催された。その後、両国間では継続的に協議が進められており、2018年2月にはブエノスアイレスにおいて第4ラウンドが開催された。

第3ラウンドにおいては、具体的な13のテーマについて協議した。主な項目としては、財およびサービス市場参入、原産地規則、貿易円滑化、貿易の技術的障害(TBT)、衛生植物検疫措置(SPS)、政府調達、知的財産などだ。

第4ラウンドでは、アルゼンチン側が農業および農産加工品の市場参入の簡素化の必要性を強く求めたものの、特段の進展はなかった。両国は引き続き、協議を継続することで合意している。報道によると、メキシコ側としては、NAFTA再交渉の行方が流動的なことがあり、当初は2017年11月には両国間で合意することになっていたACE6号の新たな枠組みについては繰り延べになっている。

アルゼンチンが期待するのはメキシコの農産品市場

メキシコとの通商関係の強化において、アルゼンチンが期待しているのは、メキシコにおける農産品市場へのアクセス拡大だ。トランプ米政権誕生(2017年1月)以降、NAFTAの行方が不透明になる中、南米南部共同市場(メルコスール)加盟国で農業分野に強いブラジルやアルゼンチンはメキシコ市場への接近を模索するようになった。米国市場から農産品を輸入してきたメキシコにとって、メルコスール諸国がその代替先に成り得るのではないかという見立てからだ。エチェベレ・アルゼンチン農産業相は、農牧協会(SRA)会長だった2017年4月当時、アルゼンチンが高品質で安定的にメキシコ食品需要を満たすことができるとの期待を示している。

報道によると、メキシコはトウモロコシ、大豆、羊肉、鶏肉、乳製品、ワイン、麦類など、年間約200億ドルの農産品を輸入しており、その8割近くが北米から供給されている。 今後、メキシコ市場にとっては、コメ、トウモロコシ、鶏肉およびグリンピースの需要があるとのことで、これらが今後、関税ゼロになる方向で調整されている、とも報じられている。

なお、両国間には、2002年9月署名の自動車産業分野の経済補完協定であるACE55号(メキシコ-メルコスール自動車協定)があり、2015年3月に同協定の付属書I(メキシコ-アルゼンチン自動車協定)の第5次追加議定書が締結されている。同追加議定書に基づき、2018年3月までは61億3,000万ドル、そして2019年3月までは63億7,000万ドルという無関税割当の枠内で相互に完成車の関税が撤廃されているほか、自動車部品の貿易も自由化されている(自動車部品については割当による制限はない)。

「賢い統合」構想を推し進めるマクリ政権

アルゼンチンでは、2015年のマクリ大統領の誕生と、その後の同大統領による通商政策の展開は中南米における通商面における地域統合の深化に影響を与えている。

アルゼンチンの通商政策は、2003~2015年のキルチネル政権と、続くフェルナンデス政権時の保護主義政策に代表されてきた。基本的には自国の産業保護を前提とした貿易管理制度、またフェルナンデス政権後期では、外貨準備高の維持を念頭においた厳しい輸入規制による為替管理制度が前面に押し出されていた。

マクリ政権は、10年以上続いた左派政権による通商政策からの脱却を図った。輸入規制に結び付く諸制度を廃止または緩和するとともに、それに関連した外貨規制についても改善した。マクリ政権の誕生によって、財・サービスの輸入面で大きく改善された。

また、マクリ政権の対外政策における大きな方針は、「賢い統合」という構想の推進だ。これは、一次産品のポテンシャルが大きいアルゼンチンにとって、穀物、農産品、鉱物資源などの輸出により海外市場を積極的に開拓することが望ましいという考えに立脚している。その手法としては、長期の左派政権によって「政治同盟」化したメルコスールを再び経済的な同盟として捉え直し、また同じ中南米で存在感を増している太平洋同盟諸国との通商関係の深化を図ることにある。

前者は、2016年のブラジルでの中道右派・テーメル政権の誕生や、2017年8月のベネズエラのメルコスール無期限資格停止を背景に、アルゼンチンがメルコスール議長国だった2017年上半期にEUとのFTA交渉を推進し、2017年中の合意を目指して尽力した。

後者では、太平洋同盟の正式加盟国であるメキシコ、コロンビア、ペルー、チリと個別に協議を行い、経済連携の深化を図った。チリとの間においては、2017年11月に経済連携の強化について合意しており、今後、同じ中道右派政権の誕生によってさらなる強化が見込まれるところだ。

コロンビアとメルコスールの間では、ACE59号の例外品目の関税を撤廃し、2017年7月のメルコスール首脳会議でACE72号として締結し、2017年12月に批准した。ペルーとの間においても2005年11月に発効したACE58号の対象品目を、農産品を中心に拡大するため2017年11月から改定に向けた協議が進められている。

(クラウディオ・ボチャタイ、紀井寿雄)

(アルゼンチン、メキシコ)

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