インフラ投資と移民制度改革を政策課題の前面に－大統領、一般教書演説で超党派の協力呼び掛け－

インフラ投資の連邦負担額は示さず

1月30日夜にワシントンで行われた一般教書演説において、トランプ大統領は就任後1年間について「信じられないほど素晴らしい前進（incredible progress）」と「驚くべき成功（extraordinary success）」を成し遂げたと自賛した。特に「中間層や小規模企業に対する大きな救済策」となるとし、2017年末に成立した税制改革を実績として強調した。

今後取り組む政策課題としては、インフラ投資と移民制度改革を前面に出し、それぞれについて超党派での取り組みを呼び掛けた。

インフラ投資については、今後10年間に官民で1兆ドルとしていた投資規模を引き上げ、最低でも1兆5,000億ドルの投資額を生み出す法案を提出するよう議会に求めた。ただし、予算教書で示された2,000億ドルの連邦政府の負担額を増額するかについては言及しなかった。

民主党は連邦政府の負担額の増額を求めている。上院少数党院内総務のチャック・シューマー議員（ニューヨーク州）は一般教書演説前日の1月29日付「ワシントン・ポスト」紙に寄稿し、「政権の示しているインフラ投資の案は、資金の大部分を民間や州・地方政府の投資に依存している。これでは自治体や民間企業はインフラの使用料金の値上げや増税などを地方の有権者に求めざるを得ず、多くの地域での投資や主要プロジェクトが除外されてしまう」とした。その上で、「（財政）保守強硬派（the hard right）はトランプ大統領に連邦資金を使わないよう求めているが、米国のインフラを効果的に立て直す上では連邦資金を支出する必要がある」と主張している。

「ドリーマーズ」を人質にしていると民主党は批判

移民制度改革に関してトランプ大統領は、不法移民による犯罪の脅威を主張することに多くの時間を費やした。こうした脅威から米国人を守るために、両党の議員と協力する準備があるとしている。具体的な政策の中身としては、ホワイトハウスが1月25日に発表した「移民制度改革・国境警備に関する枠組み」にのっとった以下の「4つの軸」を「公平な妥協案として両党は支持すべき」と主張した。移民を支持基盤とする民主党が強く求める幼少期に不法入国した若者（ドリーマーズ）に対する保護で譲歩し、トランプ政権が求めてきた南部国境地帯における壁の建設を含む移民政策を受け入れるよう求めたかたちだ。

〇4つの軸

（1）教育、労働、倫理に関する基準を満たし、幼少期に両親に連れられて不法に入国した移民（ドリーマーズ）180万人が市民権を得る道を開く。

（2）南部の国境に「壁」を建設。国境警備に当たる米移民税関捜査局（ICE）職員などを増員する。捕らえた不法移民を審理までの間は釈放する「キャッチ・アンド・リリース」慣行を撤廃する。

（3）永住権（グリーンカード）取得に係る抽選（ロッタリー）制度を廃止し、能力主義の移民制度へ移行する。

（4）移民が米国に呼び寄せられる家族を、配偶者と未成年（21歳以下）の子供に限定する。

民主党のナンシー・ペロシ下院少数党院内総務（カリフォルニア州）はホワイトハウスが示した枠組みに対して、「政権が示した反移民の枠組み（anti－immigrant framework）は、ドリーマーズを憎しみに満ちた反移民制度のために人質に取ろうとするひどく卑劣な行為だ」と強い言葉で批判している。

通商政策は具体的な発言なし

通商関係で大統領は「悪い通商協定を直し、新しい協定の交渉を行っていく」と述べたが、北米自由貿易協定（NAFTA）や環太平洋パートナーシップ（TPP）協定など個別の通商協定については触れていない。また、特定の国を名指しすることもしなかった。貿易ルールの執行強化により米国の知的財産権を守るとしたが、中国に対して実施している通商法301条調査についても言及しなかった。

労働分野については、職業訓練に投資すると述べた。技能職を育てる職業訓練校を開設するとしている。

安全保障面では、「イラクとシャームのイスラム国（ISIS）」からイラクとシリア全土を解放したことを成果として強調するとともに、北朝鮮の残虐性と脅威を訴え掛けることに多くの時間を費やした。

（鈴木敦）