大型洗濯機に対するセーフガード措置を発動へ-トランプ政権によるセーフガード措置(1)-

(米国)

ニューヨーク発

2018年01月29日

トランプ大統領は1月23日、大型家庭用洗濯機と太陽光発電製品の輸入に対して緊急輸入制限措置(セーフガード措置)を発動する大統領布告を発出した。米国政府によるセーフガードの発動は2002年以来。各措置の内容を2回に分けて報告する。前編は大型家庭用洗濯機に対するセーフガード措置について。

洗濯機本体と部品に関税割当制、2月7日から適用

トランプ大統領は1月23日、大型家庭用洗濯機の輸入に対してセーフガード措置の発動を命じる大統領布告(Presidential Proclamation)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発出した(同時に発表した太陽光発電製品に対するセーフガード措置については後編を参照)。米国政府がセーフガードを発動するのは、ブッシュ(子)大統領が鉄鋼製品の輸入に対して発動した2002年以来となる(注1)。

1974年通商協定法201条PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は、米国国際貿易委員会(USITC)による損害認定(輸入が国内産業への重大な損害要因またはその恐れとなっているかを認定する)に基づき、一定期間(原則4年以内、最長8年)に限り、全ての輸入国に対して特定産品にかかる関税の引き上げや関税割当などのセーフガード措置を発動する権限を大統領に与えている。

USITCは2017年10月5日に大型家庭用洗濯機の輸入が国内産業の重大な損害の実質的要因になっているとの判断を下しており(2017年10月19日記事参照)、12月4日に大統領に措置内容の提案を含めた勧告を提出している。大統領布告はUSITCの勧告を受けた上で、政権として具体的な輸入制限措置の内容を決定し、その発動を命じたものになっている。今回発表されたセーフガード措置は2018年2月7日から適用される。

発動するセーフガード措置は関税割当制を取っており、輸入量により関税が異なる。国別や月別の輸入割当量は設定されておらず、セーフガード関税の無税枠は「先着順」になるとみられる(通商専門弁護士)。

洗濯機本体に課される1年目のセーフガード関税は、米国の年間輸入量で120万台以内の輸入は20%、120万台に到達した後の輸入については50%となっている(表参照)。洗濯機の一部部品も対象で、これらについては設定された輸入数量上限を上回る場合にセーフガード関税が課される。なお、この輸入数量上限は年々増加する。また、洗濯機本体、部品ともに、セーフガードの適用期間は3年で、税率は毎年低下する。

表 大型家庭用洗濯機とその部品に係る輸入割当量とセーフガード関税率 (単位:%)
項目 1年目
(2018年2月7日~ 2019年2月6日)
2年目
(2019年2月7日~ 2020年2月6日)
3年目
(2020年2月7日~ 2021年2月6日)
洗濯機に対するセーフガード関税
(120万台まで)
20 18 16
洗濯機に対するセーフガード関税
(120万台を上回る輸入分)
50 45 40
対象部品に対する関税 50 45 40
関税免除の対象部品輸入量上限 50,000 70,000 90,000

(注)対象HTSコード:洗濯機(8450.20.00、8450.11.00)、部品(8450.90.20、8450.90.60)。
(出所)USTR資料、大統領布告

洗濯機は、本体(Cabinet)の幅が62.23~81.28センチの全自動洗濯機(回転軸を問わない、HTSコード:8450.20.00、8450.11.00)が対象になっている。部品(8450.90.20、8450.90.60)は、本体、バスケット、タブ、シールなどが含まれる。

NAFTAのカナダは適用対象外に

セーフガード措置は、アンチダンピング(AD)など他の貿易救済措置とは異なり、原則、全ての貿易相手国からの輸入が対象になる。ただし、WTOのセーフガード協定第9条は、一定の条件(注2)を満たす開発途上国からの輸入についてはセーフガード措置の適用除外とすることを定めている。トランプ政権はこの規定にのっとり、一般特恵関税制度(GSP)対象国(条件を満たさないタイを除く、注3)からの輸入を適用除外としている。

また、米国が締結する自由貿易協定(FTA)には、FTA締結国からの輸入が米国の国内産業の深刻な侵害に大きく寄与していない場合に、これらの国からの輸入に対してセーフガード措置の適用を除外する規定が盛り込まれている。USITCは北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国のメキシコとカナダを含む全ての米国のFTA締結相手国からの輸入を適用対象外とする勧告を出していたが、トランプ政権はカナダに対してのみこのFTAによる適用除外を適用した。

トランプ大統領は投資誘致につながることを強調

このセーフガード調査を要請した米国家電大手ワールプール(本社:ミシガン州)は、サムスン電子とLGエレクトロニクスの韓国企業2社が、生産活動の移転により米国のAD措置を回避し続けてきたと批判していた。米国政府は、2013年2月に韓国とメキシコからの輸入へのAD措置の発動を決定したほか、2017年1月には中国からの輸入に対しても発動している。ワールプールは、サムスン電子とLGエレクトロニクスの2社が韓国とメキシコから中国へ、次に中国からタイとベトナムへと生産拠点を移すことで、米国のAD措置を回避してきたと主張している。

これに対して、サムスン電子とLGエレクトロニクスはそれぞれ米国内における洗濯機生産の開始を発表しており、工場立地予定先の連邦議会議員らは両社を擁護していた。

トランプ大統領は「今回の決定は、米国に洗濯機の巨大な製造拠点を設置することを約束したLGとサムスンにこの約束を最後まで実行する強いインセンティブを与えるものだ」「これにより、たくさんの製造企業が洗濯機と(別途セーフガードを発動した)太陽光発電製品の製造を米国で行うことになる」と述べた(通商専門誌「USインサイドトレード」1月23日)。

(注1)セーフガード措置は、WTOでも認められている措置。しかし、その発動には輸入増加と国内産業の損害の因果関係を証明することなど厳しい条件が課されている。ブッシュ(子)政権が2002年に発動した鉄鋼セーフガードでは、米国はWTOで敗訴しており、2003年に関税を撤廃している。

(注2)WTOセーフガード協定第9条は、「開発途上加盟国を原産地とする当該産品の輸入の割合が当該産品の総輸入量の3%を超えない場合には、当該開発途上加盟国を原産地とする当該産品について(セーフガード措置が)取られてはならない」「ただし、3%を超えない輸入の割合を有する複数の開発途上加盟国からの輸入の割合の合計が当該産品の総輸入量の9%以下であることを条件とする」と規定している。

(注3)アフガニスタン、アルバニア、アルジェリア、アンゴラ、アルメニア、アゼルバイジャン、ベリーズ、ベナン、ブータン、ボリビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ボツワナ、ブラジル、ブルキナファソ、ミャンマー、ブルンジ、カンボジア、カメルーン、カボベルデ、中央アフリカ、チャド、コモロ、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、コートジボワール、ジブチ、ドミニカ、エクアドル、エジプト、エリトリア、エチオピア、フィジー、ガボン、ガンビア、ジョージア、ガーナ、グレナダ、ギニア、ギニアビサウ、ガイアナ、ハイチ、インド、インドネシア、イラク、ジャマイカ、ヨルダン、カザフスタン、ケニア、キリバス、コソボ、キルギス、レバノン、レソト、リベリア、マケドニア、マダガスカル、マラウイ、モルディブ、マリ、モーリタニア、モーリシャス、モルドバ、モンゴル、モンテネグロ、モザンビーク、ナミビア、ネパール、ニジェール、ナイジェリア、パキスタン、パプアニューギニア、パラグアイ、フィリピン、ルワンダ、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、サモア、サントメプリンシペ、セネガル、セルビア、シエラレオネ、ソロモン諸島、ソマリア、南アフリカ共和国、南スーダン共和国、スリランカ、スリナム、スワジランド、タンザニア、東ティモール、トーゴ、トンガ、チュニジア、トルコ、ツバル、ウガンダ、ウクライナ、ウズベキスタン、バヌアツ、イエメン、ザンビア、ジンバブエ。

(鈴木敦)

(米国)

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