デジタル貿易では加盟国の主張に隔たりも-WTOパブリック・フォーラム報告(2)-

(世界)

国際経済課

2017年10月13日

WTOが9月26~28日に開催した公開型会議「パブリック・フォーラム2017」報告の後編。大きなテーマの1つだった「デジタル貿易」については活発な議論が行われ、課題が浮き彫りになるとともに、貿易ルールの形成に向けて加盟国の主張に隔たりがみられた。

経済のデジタル化の課題も浮き彫りに

WTOパブリック・フォーラム冒頭の全体セッションは、ロベルト・アゼベドWTO事務局長のあいさつの後、3分弱のオープニングビデオ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの放映から始まった。ビデオは貿易とともに技術の進歩を取り上げ、今回のフォーラムがいかに技術革新を大きなテーマと捉えているかがうかがえた。

前編(2017年10月12日記事参照)に記載のとおり、今回のフォーラムでは「デジタル貿易」について多くのセッションが設けられた。議論の中心は技術革新の現状と今後の見通し、そして国・地域間における格差やルール形成などだった。これまで技術革新は製造業を中心に進んできたが、今後はサービス業でもさらにデジタル化が進むだろうとの見方が目立ったものの、具体的にどのような技術がどのように経済活動に活用されるかを予測することは難しいとの声も出た。

写真 WTOパブリック・フォーラムのECに関するセッションの様子。EC関連のセッションには多くの聴講人が集まった(WTO公式ウェブサイトより)

フォーラムでは、デジタル化の必要性の認識とともに、その恩恵を享受できていない層が世界に存在することも議論の焦点となった。バース大学(英国)のシャメル・アズメー助教授はパネリストとして参加したセッションの中で、「情報格差(Digital Divide)」は従来、インターネットへのアクセスを持つ人とそうでない人の格差を意味していたが、現在ではそれに加えて、データなどを活用した付随サービスの提供や利用など、より広範な格差を意味するようになったと指摘した。米国企業であるGAFA〔グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)〕が先進国をはじめ多くの市場に進出し、文字どおり世界中でデータの収集を行い、ビジネスに活用する一方、この競争に出遅れた企業の多い国・地域では、GAFAのような巨大企業に妨げられ、地場産業の成長を促すことが難しくなるというのだ。

また、オープニングセッションのパネリストだったアフリカのテレコム企業エコネット(Econet)のストライブ・マジイワ代表は、「テクノロジーはツールにすぎない」とし、それを活用する人材の不足について話した。急速な技術革新で新たな雇用の創出がみられるが、その雇用に必要なスキルを持つ人材の不足が、特に情報通信技術(ICT)に後れを取る国・地域でみられる。これらの国・地域では、人材育成のための教育、スキル形成のプログラムなどといった国内政策の見直しも必要との議論もあった。

貿易ルールに柔軟性求める声も

WTOには、デジタル貿易、特に電子商取引(EC)に関する多くのルール提言がされている。国境を越えたデータ授受や電子コンテンツへの課税をしないことなど主にビジネスの側面からの提言に対し、南アフリカ共和国のWTO政府代表部参事官バヒニ・ナイドゥ氏は、「反開発(Anti-Development)」と表現し、途上国による地場産業の成長を妨げると発言した。一部の途上国にとっては、デジタル貿易における地場産業の成長を促す政策を講じることが喫緊の課題となっている。こうした政策を構築するに当たり、貿易ルールにはある程度の柔軟性が必要との主張が幾つかのセッションで聞かれた。

12月にアルゼンチン・ブエノスアイレスで行われるWTO第11回閣僚会議(MC11)では、デジタル貿易や電子商取引に関するルール形成に関する議論の進展が期待されている。デジタル貿易に関する議論は活発化しているが、国境を越えたデータ移転の自由化と自国企業の育成をめぐる対立などもみられ、前編で紹介した「包摂的貿易」と同様、MC11では大きな成果は見込みにくいとの指摘も出ている。

(長崎勇太)

(世界)

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