テキサス州の製油所が徐々に操業再開-ハリケーンの影響、港湾やパイプラインは復旧遅れる-

(米国)

米州課

2017年09月04日

ハリケーン「ハービー」の影響で一時閉鎖されていたテキサス州内の石油精製施設が徐々に操業を再開している。しかし、港湾施設やパイプラインの復旧が遅れているため、原油・石油製品の国内出荷や輸出入が正常化するのは数日から数週間先となりそうだ。エネルギー省は9月1日、市場を安定化するため、戦略石油備蓄(SPR)から最大450万バレルの原油を放出する方針を発表した。

製油能力の3分の1がメキシコ湾岸に

テキサス州のメキシコ湾岸には、全米の製油能力の3分の1、日量560万バレル(B/D)の製油所が立地している。ハリケーン「ハービー」が直撃したため、州内10カ所の製油所が一時操業停止に追い込まれ、ガソリン価格が上昇した。全米自動車協会(AAA)によると、全米平均のガソリン価格(レギュラー、無鉛)はレーバーデー前日の9月3日時点で1ガロン=2.621ドルと前年比18.5%上昇した。ヒューストン市内でも2.415ドルとハリケーン来襲の1週間前と比べて25セント近く上昇した。

また、石油精製施設の操業停止は原料である原油の余剰を引き起こし、原油価格を一時下押しした。ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)のWTI原油先物価格(10月限)は、9月1日午後4時時点で、同日午前比23セント安の1バレル=46.79ドル、インターコンチネンタル取引所(ICE)の北海ブレント原油先物価格(11月限)は、同23セント安の52.56ドルと、いずれも同日午前に引き続き下げている。ハリケーンの影響で米国の原油処理量が低下したためだ。

10製油所のうち6カ所は操業を再開

しかし、テキサス州内の製油所の稼働率は、徐々にではあるが9月初めから回復し始めており、操業停止に追い込まれていた州内10カ所の製油所のうち6カ所は既に操業を再開している。エクソンモービルは全米で2番目の製油能力を誇るベイタウンの製油所(製油能力:56万B/D)の操業を9月初めに再開した。マラソン・ペトロリアムはガルベストン湾の製油所(45.9万B/D)を稼働率45%の水準で操業再開した。シェルはディアパークの製油所(31.66万B/D)の9月5日再開を発表した。またフィリップス66はボーモントの製油所(24.7万B/D)を、ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)傘下のシトゴ(CITGO)はコーパスクリスティーの製油所(15.7万B/D)をまもなく再開すると発表した。一方、サウジアラムコ傘下モティバ(Motiva)が所有し、全米最大の製油能力を誇るポートアーサーの製油所(63.65万B/D)は8月30日から生産休止に追い込まれており、再開は2週間ほど先となる見込みだ。

製油施設の一部再開に伴い、在庫として積み上がってきた原油も徐々に動き始めている。石油精製企業の間では、ガソリンの先物を売り、原油を買い戻すクラック・スプレッド取引の動きもみられ、今後はガソリン価格が落ち着きをみせる中で、原油市況が回復していくことも予想される。

港湾やパイプラインの被災で石油製品出荷に遅れも

シェール革命以前は、米国は原油を中東や中南米諸国からの輸入に依存していた。メキシコ湾沿岸に石油精製施設が集中しているのは、海外からの輸入原油をメキシコ湾岸の港湾で荷揚げし、これを精製し国内外へ出荷するためだ。シェール革命で国内の原油生産が増強され、最近では原油の輸出も本格化している。しかし、今回のハリケーンの影響でテキサス州ヒューストンやコーパスクリスティー、ルイジアナ州レイクチャールズなどの港湾設備が被災したため、諸外国からの原油の輸入、全米各地や周辺国への原油・石油製品の供給に遅れが出ている。

このうちコーパスクリスティーの港湾施設は9月4日の週には正常化する見込みだ。近郊のイングルサイドにあるオクシデンタル・ペトロリウムの輸出施設はハリケーン上陸で停止に追い込まれていたが再開され、州内パーミアン鉱区から産出される原油の輸出が始まった。また8月30日に米沿岸警備隊は、ハリケーンの影響で閉鎖されていたテキサス州のヒューストン、テキサスシティー、ガルベストン、フリーポート各港における船舶の出入りを制限付きで再開した。

メキシコ湾岸から米北東部向けにガソリン、ディーゼル、ジェット燃料300万B/D以上を送油するコロニアルパイプラインも、ハリケーンで8月30日操業停止に追い込まれた。同パイプラインは、メキシコ湾沿いで精製されたガソリンの約4割を米北東部へ送油する基幹パイプラインだが、9月2日時点でテキサス州内が依然停止しているほか、ルイジアナ州レイクチャールズからノースカロライナ州グリーンズボローまでの間も部分的にしか稼働していない。

政府は戦略石油備蓄から原油450万バレルを放出

石油製品の需給逼迫が原油にまで及び始めることを懸念して、エネルギー省は8月31日、戦略石油備蓄(SPR)から100万バレルの原油を放出すると発表し、翌日には放出枠を最大450万バレルに引き上げた。SPRは1975年エネルギー政策・保存法によって創設されたもので、メキシコ湾沿岸ではテキサス州ブライアン・マウンドとビッグ・ヒル、ルイジアナ州ウェスト・ハックベリーとバイヨ・チョクトーの計4基地に分けて、6月時点で合計7億1,350万バレルの原油が岩塩層に構築された地下の貯蔵庫に備蓄されている。当初発表の放出枠100万バレルについては、軽質原油40万バレルと重質原油60万バレルが、ルイジアナ州レイクチャールズにあるフィリップス66の製油所にウェスト・ハックベリー基地からパイプライン経由で供給されることが決まっている。追加枠の350万バレルについては、マラソン・ペトロリアムが軽質原油を300万バレル、バレロ・エナジーが50万バレルの供給を申請している。SPRの放出は2012年のハリケーン「アイザック」以来5年ぶりとなる。

(木村誠)

(米国)

ビジネス短信 3fa7aced9ae20098