最低賃金、2018年1月から10.9%引き上げ

(チェコ)

プラハ発

2017年09月04日

法定最低賃金に関する政令が8月21日に改正された。2018年1月1日から現行の月額1万1,000コルナ(約5万5,000円、1コルナ=約5.0円)が1,200コルナ(10.9%)引き上げられ、1万2,200コルナとなる。1時間当たりでは66コルナから73.20コルナになる。

好調な経済の恩恵を労働者にも

ボフスラフ・ソボトカ首相は8月21日の閣議後の声明で、今回の最低賃金引き上げは好調な経済動向に鑑み決定されたと述べた。「チェコの失業率はEU加盟国の中で一番低く、経済は予想を上回るテンポで成長している。さらなる賃金引き上げを実施するのに理想的な時期と判断した。景気が上昇している現在、労働者もその恩恵を受けるべきだ」と説明している。

チェコ統計局が8月16日に発表した速報によると、第2四半期の実質GDP成長率は、個人消費および企業の投資拡大を背景に前年同期比4.5%と、第1四半期の2.9%を上回った。

平均賃金の40%に達する見通し

ソボトカ内閣は綱領に「最低賃金を段階的に引き上げ、平均賃金の40%に近づける」ことを掲げている。これまで2015年、2016年、2017年の1月1日に引き上げを実施し、2014年の8,500コルナを現行の1万1,000コルナにした(2014年10月7日記事2015年9月29日記事2016年10月13日記事参照)。

労働・社会福祉省によると、2017年の平均賃金予測額は2万8,820コルナで、これに対する現行の最低賃金の割合は38%となっている。2018年の平均賃金は3万120コルナと予測されており、最低賃金の割合は今回の引き上げにより40.5%に達する見通しだ。

ソボトカ首相は声明の中で40%の目標達成に関して、「労働者がまともな生活を送れ、十分なモチベーションを保てるように、最低賃金の引き上げを綱領の経済部門の重要項目に挙げている。平均賃金の40%と設定してきた目標を達成することを非常に喜ばしく思う」とした。

ただし、引き上げ幅に関しては、連立与党内の見解は当初一様ではなく、首相が属する最大与党のチェコ社会民主党(CSSD)以外のANOとキリスト教民主連合・チェコスロバキア人民党(KDU・CSL)は1,000コルナの引き上げを提案していた。最終的にはミハエラ・マルクソバー労働・社会福祉相らCSSDの閣僚が他の2党を説得するかたちで、1,200コルナの引き上げが決まった。

産業界は経営を圧迫と批判

雇用者代表団体の産業連盟は、「内閣の綱領は最低賃金を段階的に40%に近づけるとしたもので、大幅引き上げにより40%を超えることはこれに反する」と今回の引き上げを批判している。同連盟は、2018年の引き上げ額は800コルナに抑えて40%を超えない範囲とし、2019年に800コルナ引き上げるよう要求していた。

またチェコ商工会議所は、最低賃金の大幅引き上げは、最低賃金の被雇用者の割合が高い企業の経営を著しく圧迫すると反対している。同会議所は産業連盟とともに、最低賃金引き上げを政治的に利用することは避けるべきとしており、最低賃金は「実体経済および将来的な経済の動向に鑑みた客観的条件に従って変更されるべき」と主張している。特に10月に総選挙を控えた現在、ソボトカ政権による最低賃金の引き上げには、引き上げ率にかかわらず反対を表明していた。

同商工会議所は声明で、「最低賃金の引き上げは、高所得層の賃金にも上昇圧力をかける。生産性の上昇を伴わない場合でも、雇用者は賃金を引き上げざるを得ない状況に陥る」と指摘し、「賃金引き上げは、生産性の向上や付加価値のより高い製品への方向付けに連動するものでなければならない」としている。

(中川圭子)

(チェコ)

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