施行から3カ月余り、日系企業に大きな影響なし-広州で就労許可の新制度に関するセミナー-

(中国)

広州発

2017年08月16日

ジェトロ広州事務所は7月21日、4月1日から中国全土で導入された外国人就労許可の新制度(以下、新制度)に関するセミナーを開催した。施行後3カ月余りが経過したが、当局の柔軟な対応などもあり、広東省の進出日系企業の間で大きな影響は生じていない。

現地法人の中間管理職以上にB類を適用

新制度は、2016年10月から2017年3月にかけて、北京市や広東省など10地域で試験運用が実施された。4月1日以降に中国全土で正式施行されるのを控え、国家外国専門家局など4部門は3月28日、「外国人来華工作許可制度の全面実施に関する通知」(以下、通知)を発表した(2017年5月2日記事参照)。

新制度では、外国人材はハイレベル人材(A類)、専門人材(B類)、一般人員(C類)に分類されるが、通知により、認定基準が試験運用時から幾つか変更された(表1参照)。

表1 各分類の認定基準

新制度は中国各地で運用が異なり、セミナーでは広東深秀律師事務所の尹秀鍾・代表弁護士が、認定基準や広東省での点数評価制度の運用状況などについて次のとおり説明した。

A類は中国社会の経済発展に貢献できる人材で、6項目のいずれかの条件に合致すれば、年齢や学歴、業務経験の制限を受けない。ただ、年齢については、A類人材でも実質的に就業が許可されるのは70歳までであり、これを超えると許可されない可能性が高い。

A類に該当する6項目のうち、「国際的に認められた専門的成果認定基準に合致する人材」には、ノーベル賞や日本国際賞、京都賞などのほか、「フォーチュングローバル500社」(注1)の本社で副社長以上の高級管理職にある人や研究開発に従事する人も該当する。同じく、「市場が推進する奨励類職位で必要とする外国人材」については、申請者の平均年収が勤務地における前年の平均年収(注2)の6倍以上なら、A類人材として認められる。

B類は、中国社会の経済発展に緊急に必要な専門人材とされる。B類に該当する6項目の中に「学士以上の学歴と2年以上の関連業務経験を有する外国専門人材」とあるが、これには外国駐在員事務所の首席代表または一般代表、外資系現地法人の中間管理職以上の人も該当する。中間管理職は、一般的に高級管理職(総経理、副総経理、財務担当経理)以外の管理職(人事、製造などの部門長)とされる。

広東省の進出日系企業の日本人社員は総じて収入や職位が比較的高いほか、当局の柔軟な対応もあり、新制度の施行から3カ月余りが経過した7月下旬時点では、年齢が60歳を大幅に超える人などを除き、就労許可を取得または更新できないとの事例はあまり生じていない。

深セン市などでは弾力的な運用も

A類、B類とも、条件の各1~5項目に該当しない場合は、「点数評価制度」によって審査する(表2参照)。中国語レベルは、通知に添付された「外国人来華工作分類基準(試行)」で、点数の上限が10点から5点に引き下げられた一方、「中国国籍を有していた外国人(5点)」が追加されている。

 表2 点数評価の要素(試行版と新基準の比較)

「中国国内の雇用組織が支給する年収」について、広東省広州市や深セン市では、香港・マカオ・台湾を含む海外での収入も課税対象とし、中国国内で合わせて個人所得税を納付していれば、同国内での年収として認められる。なお、外国人を新規で雇用する場合は、収入が記載された労働契約書を提出する。

「地方政府による奨励加点」に関して、深セン市などでは、年齢が61歳以上などの理由で申請者の点数がB類の適用条件である60点に満たない場合、追加書類を担当部門へ提出してもらい再審査を行っている。

開封済みの無犯罪記録証明は無効に

「外国人工作許可証(工作許可証)」(注3)の取得に当たっては、以前は窓口でも申請が可能だったが、2017年5月1日以降はオンラインでの申請に一本化された。新制度では図のとおり、従来は関連の政府部門から入手する必要があった「招聘(しょうへい)確認状」や中国語および外国語の申請者本人の履歴書などの提出が不要となっている(注4)。なお、「1.オンライン申請、アカウント登録」「2.外国人来華工作許可通知」の取得には、それぞれ5営業日(B類およびC類は10営業日)を要する。

図 外国から新たに中国へ赴任する際の手続きのフロー(就業日数90日超)

一方、最高学歴証書(または職業資格証明)、無犯罪記録証明の入手は必要だ(注5)。

うち、中国国外で取得した最高学歴の証書については、申請者の所在国にある中国の大使館・総領事館、中国国内にある申請者所在国の大使館・総領事館、中国教育部の学歴認証機構のいずれかで公証を受ける必要がある。申請者所在国(日本国内)の公証機構による公証は、試行段階では可能だったが、現在は認められていない。

無犯罪記録証明は、日本国内の都道府県警察本部での申請・取得が必要だが、地域によりオンライン申請の事実を証明する書類の提出を求める警察本部もある。無犯罪記録証明については、申請者の所在国にある中国の大使館・総領事館、中国国内にある申請者所在国の大使館・総領事館のいずれかで公証を受ける必要がある。公証を受ける前に開封すると、無犯罪記録証明は無効となるため注意が必要だ。

(注1)米国フォーチュンが毎年発表する世界の有力企業ランキング。

(注2)各市の人力資源・社会保障部門などが毎年6月ごろに公表している。深セン市における2016年の平均年収は約9万元(約144万円、1元=約16円)だった。

(注3)「工作」は、日本語では「労働」「就労」の意味。

(注4)オンラインでの申請時に申請者の学歴や職務経歴などを入力する必要がある。

(注5)職歴証明や健康診断証明と併せ、いずれも新規に工作許可証を取得する場合に必要。従来の「外国人就業許可証」を工作許可証に変更する場合や同許可証を更新する場合は、最高学歴証書や無犯罪記録証明の提出は不要。

(粕谷修司)

(中国)

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