売上高税率が1.25%に引き上げ、企業負担かさむ-2017/2018年度税制改正と日系企業の見方(1)-

(パキスタン)

カラチ発

2017年07月31日

2017/2018年度(2017年7月~2018年6月)財政法が7月に施行され、これに伴い税制の一部が改正された。今般の改正点と当地日系企業による見方を2回に分けて報告する。前編は、企業への負担が重く、当地の日系企業が改善を要望していた売上高税について。今回の改正により税率が1%から1.25%に引き上げられたため、負担はさらに重くなった。

業績が赤字でも納税義務を負う売上高税

今般の税制改正では、売上高税(Turnover Tax)の税率が従来の1%から1.25%に引き上げられた。売上高税は、「最低税(Minimum Tax)」とも称されており、年間5,000万ルピー(約5,500万円、1ルピー=約1.1円)以上の売上高がある事業体は、法人税の支払い義務がない会計年度であっても、最低限、売上高税を支払わなければならない。

事業体の売上高の1.25%が納税義務として発生し、同年度の法人税(税引き前利益に対して30%)の納税予定額と比べて、高い方の金額を納付する。売上高税が新規投資や再投資を妨げ得る最大の要因は、法人税とは異なり、業績が赤字であっても納税義務を負う点にある。

進出直後や売上高の大きい企業に影響

売上高税が負担となる典型的なケースは、次の2つだ。1つは、直接投資や操業開始直後の企業の場合だ。設備投資を伴う製造業の場合、減価償却などもあり、操業開始直後に利益を出すのは一般的には困難なことが多い。しかし、売上高税の支払い義務は発生する。赤字の事業体は、売上高税の納付のため、増資や借り入れなど、何らかのかたちで資金を調達する必要に迫られる。借り入れの場合は金利も発生し、企業の負担はさらに増す。

もう1つのケースは、売上高は高額になるものの収益率が低い、薄利多売型のビジネスモデルの場合だ。例えば、当地では石油販売や石油精製に携わる事業体、大規模化学関連企業などだ。また、進出日系企業が多い自動車産業の一部企業も該当する。当地の自動車産業は、ASEANやインドに比べて現地調達率が低く、基幹部品などは輸入せざるを得ない。自動車部品に対する関税率は高く、関税分は製品原価に上乗せされる。最終製品の販売価格は高くなるが、利幅は小さい。事実、一部の日系自動車関連企業は、売上高税に苦しんでいた時期があった。

法人税納付時には過払い分の控除が可能

事業体の計算上の法人税額(税引き前利益の30%)が売上高の1.25%を上回ると、その会計年度では法人税を納付することになる。そうした場合、法人税納付額から前年度までの過払い分を控除することが認められる。過払い分は、前会計年度に納付した売上高税額から前会計年度の計算上の法人税額を引いた額で計算される。当会計年度の納付税額から控除することが可能だ。過払い分は、5年間にわたって繰り越しが認められている。

日系企業の要望とは逆方向の徴税強化

売上高税の目的は、会計帳簿上の税引き前純利益を意図的にマイナスにし、脱税を図ろうとする企業から、確実に徴税することだ。そのため当地日系企業は、粉飾などがない、会計監査済みの上場企業については、売上高税の課税対象から除外するよう求めてきた。2014年9月に、パキスタンにあるカラチ日本商工会、ラホール日本商工会、イスラマバード日本商工会は合同で、政府に対して改善要望書を提出した。2015年11月に首都イスラマバードで開催された第5回日本・パキスタン官民合同経済対話においても、改善を要望した。

しかし今般、その税率が引き上げられ、当地日系企業の訴えとは逆に、徴税が強化される方向にある。将来的に当地に新規投資を検討する企業にとっては、あらかじめ売上高税について理解を深めておくことが肝要だ。

(久木治)

(パキスタン)

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