昇給率は前年より低下も依然高止まり-第11回賃金実態調査(1)-

(インド)

ニューデリー発

2017年07月31日

インド日本商工会(JCCII)とジェトロが実施した「第11回賃金実態調査」によると、日系企業で働くインド人労働者の昇給率は、インフレ率の鈍化に伴い前年実績を下回ったものの、依然高止まりしている。一方、初任給の増加率は2桁ペースで、全国で賃金の底上げが進んでいることが分かった。賃金実態調査の結果を2回に分けて報告する。

2017年のスタッフの昇給率は横ばいの見込み

JCCIIとジェトロは第11回賃金実態調査PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の結果を7月14日に発表した。同調査はデリー首都圏の日系企業を中心とするJCCII会員企業に加え、ムンバイ、チェンナイ、ベンガルールなどインド国内の計8つの日本商工会や日本人会の会員企業を対象に5月に実施したもので、そのうち日系企業332社、363拠点の集計結果がまとめられている。

日系企業で働くインド人従業員の2016年の平均昇給率は、スタッフが10.1%、ワーカーが11.4%となった(表1参照)。いずれも2015年実績値のスタッフ11.0%、ワーカー12.2%を下回り、前年調査時点での2016年見込み値であるスタッフ10.7%、ワーカー12.0%をもやや下回る結果だった。一方、2017年の昇給率の見込み値はスタッフが10.0%、ワーカーが12.0%となり、スタッフはほぼ2016年実績並みが見込まれ、ワーカーについては再び加速することが予想される。賃金水準の決定については、78.2%の企業が「インフレ率」を参考としていると回答し、次いで「各種調査結果」が64.7%、「他社の動向」が59.8%となっている(表2参照)。インフレ率の指標である消費者物価指数(CPI)の上昇率は、原油価格下落の影響などにより、4.91%(2015年度)から4.52%(2016年度)に低下しており、これが従業員の昇給率にも影響しているようだ。いずれにせよ、10%を超える昇給率はCPIの数値を大幅に上回っている。インドではより高い収入を目指した転職が一般的で、企業はこうした離職を防ぐため、他社の動向などを考慮して賃金を決定することが多い。

表1 昇給率(全国平均)
 表2 賃金水準の決定における参考要素

昇給率を地域別にみると、スタッフの昇給率に大きな地域差はみられず、おおむね10%前後となっている(表3参照)。一方、ワーカーの昇給率は、カルナタカ州やラジャスタン州が他州に比べ高く、2016年実績でそれぞれ13.8%、12.4%だった。ワーカーの2017年の昇給率見込みは、デリー準州とハリヤナ州のグルガオンを除く地域、およびマハラシュトラ州のプネーにおいて15%を超える水準となるなど、質の高い労働力の確保や離職防止などのため、依然として高い昇給率の設定が求められている。なお、職種別の賃金水準は表4のとおり。

表3 地域別昇給率
表4 職種別賃金水準(平均月給、諸手当込み)

新卒者の初任給は各教育レベルとも軒並み上昇

新卒者採用時の初任給を教育レベル別に聞いた設問では、全てのレベルにおいて前年調査時よりも大幅に増加した(表5参照)。2016年実績の増加率をみると「初・中等教育終了」が最も高く32.5%、以下、「大学卒業」が18.0%、「高等教育終了」が16.1%、「大学院卒業」が14.6%となっており、総じて賃金が底上げされていることが分かる。

表5 教育レベル別初任給

賞与は、2016年実績の支給回数は「1回」(有効回答の70.0%)が最も多く、「支給なし」(16.5%)、「2回」(12.3%)、「3回以上」(1.1%)となった。賞与を支給している企業のうち72.0%が基本給をベースとしており、支給月数は前年同様に平均で1.6カ月だった。

2017年の賞与見込みについても、支給回数「1回」が最も多く72.4%、「支給なし」(13.8%)、「2回」(11.8%)と続いた。また、賞与支給予定の企業のうち70.0%が基本給をベースすると回答し、支給月数の平均は1.6カ月だった。なお、賞与に準ずる表彰制度などの有無については、「なし」が63.0%で、「あり」は37.0%だった。

(山本直毅)

(インド)

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