米国のTPP復帰の訴えに多くの支持-「アジア太平洋の経済統合と日米の役割」セミナー(1)-

(米国)

ニューヨーク、シカゴ発

2017年07月24日

ジェトロは、「アジア太平洋の経済統合と日米の役割」と題するセミナーを6月14日にワシントン、翌15日にはシカゴで開催した。それぞれのセミナーの内容を2回に分けて紹介する。米国の戦略国際問題研究所(CSIS)と共催したワシントンのセミナーでは、多くの登壇者が米国のアジア太平洋地域への関与拡大を呼び掛けた。また、米国を中心に世界でみられる反グローバリゼーションに対しては、誰も置き去りにしないという「包摂性」が重要になるとの議論が交わされた。

「米国のTPP復帰」が優先事項の最多に

セミナーでは、リック・ラーセン下院議員(民主党、ワシントン州)が来賓あいさつをした。同議員は「中国が主導する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)では、環太平洋パートナーシップ(TPP)が求めていたような高水準のルール形成にはならない」と述べ、米国はこれまでと同様に世界のルール形成に関与し続けるべきと主張した。続いて基調講演を行った石毛博行ジェトロ理事長は、日本の立場はTPPを推し進め、高水準な経済統合に引き続き取り組むことだとし、「日本は、米国がTPPに戻ってくることを望んでいる」と米国のTPP復帰を訴えた。

セミナー登壇者だけでなく、セミナーに参加した聴衆も、米国のTPP復帰を支持した。基調講演後に行われた「アジア太平洋の経済統合の新展開」と題するパネルディスカッションで投げ掛けられた「今後2~3年のうちに、米国と日本が優先すべきこと」との問いに対して、聴衆の6割が「米国のTPP復帰」と答え、最多となった(注1)。パネリストのヴォ・チー・タイン(Vo Tri Thanh)ベトナム中央経済管理研究所(CIEM)シニア・エキスパートは「(米国抜きの)TPP11を進められれば、将来的に米国がTPPに戻りやすくなる」と述べ、米国のTPP復帰だけでなく、日本が主導するTPP11も支持する立場を示した。

他方、東京大学大学院法学政治学研究科の高原明生教授は、日米が優先的に取り組むべきはTPPが理想との認識は示すものの、米国の現在の政治情勢などから現実的ではないとし、「現段階では第三国での経済協力に注力すべき」との見解を述べた。マシュー・グッドマンCSISシニアアドバイザー(アジア経済)兼政治経済部長も、TPPそれ自体は支持しているものの、「トランプ政権下ではTPP復帰は難しい」とし、第三国での経済協力を重視する高原教授の意見に賛同した。

最も勢いのあるイニシアチブは「一帯一路」

セミナーで、現在最も勢いのあるアジア太平洋地域のイニシアチブとして聴衆から選ばれたのは「一帯一路」だった(注2)。米国のTPP脱退のみならず、5月に北京で「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムが開催されたことも要因にある、と多くのパネリストが語った。

ただし、「一帯一路」の実効性については、懐疑的な意見が出た。富士通総研経済研究所の柯隆主席研究員は「『一帯一路』などのイニシアチブは、中国の安定的な経済成長に支えられている」とし、中国には国営企業の民営化などの国内改革が必要で、それには時間がかかるとの見方を示した。また、モデレーターを務めたマイケル・グリーンCSIS上級副所長(アジア担当)兼日本部長は「一帯一路はアジアの安全保障を脅かすほど、アジアの本質を変えるものではない」と独自の見解を述べた。

包摂性の重要性にも賛意広がる

セミナー冒頭の基調講演では石毛理事長が、グローバリゼーションや自由貿易への反発に対して、「誰も置き去りにしないという包摂性」が答えになると主張し、大企業の幹部や投資家だけでなく、全ての労働者がグローバリゼーションの恩恵を享受できる仕組みが重要と訴えた。セミナーの最後に行われたランチョン・ラウンドテーブルに参加したタミ・オーバービー米国商工会議所副会長(アジア担当)はこの訴えに賛意を示し、「現在は、企業が労働者に求めるスキルと労働者が有するスキルの間にギャップが生じている。この差を埋めるのは、政府だけでもビジネス界だけでもできず、両者が協力して行わなければいけない」と官民協力の重要性を説いた。また、同じくラウンドテーブルに参加したスコット・ミラーCSISシニアアドバイザーは、自動車業界が地元のコミュニティーカレッジと協力して高いスキルを持つ労働者を育成するプログラムを紹介した。その上で、「連邦レベルの施策をただつくることではなく、何が成功しているかを実際に学び、そうした取り組みを早く、かつ多方面に広がるかたちで再現することが重要」と指摘した。

(注1)選択肢は、米国のTPP復帰、日米の2国間FTA交渉、日米間の景気刺激策、第三国での日米による経済協力、の4つ。

(注2)選択肢は、TPPまたは米国抜きのTPP11、RCEP、ASEAN経済共同体(AEC)、一帯一路、その他、の5つ。

(赤平大寿、イアン・ワット、河内章)

(米国)

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