シカゴでもアジアの広域経済連携に高い関心-「アジア太平洋の経済統合と日米の役割」セミナー(2)-

(米国)

シカゴ発

2017年07月25日

「アジア太平洋地域の経済統合と日米の役割」をテーマにしたセミナー報告の後編。シカゴのセミナーは、ジェトロ、イリノイ商工会議所およびシカゴ日米協会との共催により行われた。約100人の聴衆を前に、アジアでの経済統合の展望や中国が進める「一帯一路」構想などについて、有識者が主張を述べた。

経済効果を高めるための方策を提言

セミナーではまず、イリノイ商工会議所国際ビジネス協議会のスザナ・メザ会長と在シカゴ日本国総領事館の伊藤直樹総領事が来賓あいさつをした。メザ氏は、同商工会議所による投資促進ならびに雇用創出を目的としたトレードミッション事業などを紹介し、「地域の経済推進に向け、何が提供できるか検討したい」と述べた。伊藤直樹総領事は、日系企業が中西部管轄10州で14万人の雇用を生み出していることに言及し、日本からの直接投資の重要性と日本のアジア太平洋地域発展に対するコミットメントを強調した。

基調講演で石毛博行ジェトロ理事長は、ワシントンのセミナーでも触れた「包摂性」の重要性をあらためて強調するとともに、ASEAN、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)や「一帯一路」構想などで活発化するアジア地域の動きに言及した(2017年7月24日記事参照)。続いて、製品の安全評価を行うアンダーライターズ・ラボラトリーズ(本社:イリノイ州)のキース・ウィリアムス社長兼最高経営責任者(CEO)が登壇し、環太平洋パートナーシップ(TPP)を支持すると明言した。米国にとって中国やアジアは巨大な市場であり、また米国が近年締結した自由貿易協定(FTA)が少ないことに触れ、「世界をつなぐ重要な貿易ルールの策定を追求すべきだ」と述べた。

パネリストによる発表では、ベトナム中央経済管理研究所(CIEM)のヴォ・チー・タイン(Vo Tri Thanh)シニア・エキスパートは、ASEAN経済共同体(AEC)とTPPが補完関係にあり、アジア太平洋地域の発展・統合のカギになると主張した。

富士通総研経済研究所の柯隆主席研究員は、アジア太平洋経済統合における中国市場の重要性を説きつつも、経済成長率を押し上げるために国有企業の民営化、輸出の強化、米国との貿易摩擦の回避など中国が解決すべき課題を指摘した。

東京大学大学院法学政治学研究科の高原明生教授は、EUや東アジアなどの地域統合は国家同士の利益の衝突を解決しなければ成功しない点を指摘した。中国が提唱する「一帯一路」構想については、「重要性をしっかり見極め、現実路線で議論しなければならない」と主張した。さらに、アジアにおける米国のプレゼンスを高めるため、「日本と手を組み、東南アジアの経済発展を支援していくべきだ」と説いた。

コネクターなど電子部品を手掛けるモレックス(本社:イリノイ州)のトラビス・ジョージ上級副社長は、テクノロジー分野でアジア市場が急成長を遂げている中で、米国の存在感をどのように示すかが重要と指摘した。「世界のインターネット人口のうち、半数がアジアに集中している。2020年までにインターネット機器は3倍になると予想されており、モレックスとしても絶えず進化し続ける必要がある」と述べた。

アジア太平洋の経済統合と中国の役割を議論

シカゴ日米協会の前理事長エドワード・グラント氏をモデレーターに迎えたパネルディスカッションでは、「一帯一路」について、高原教授は「中国は外交にうまく活用しているが、われわれは中国が得意とするプレゼンの見掛けに惑わされるべきではない」と警戒を促した。他方、「一帯一路」で期待される日本と米国の役割について、ウィリアムス社長は「半世紀前に行われた米国の高速道路建設の経済効果を想起させる。中国が抱える鉄鋼やセメントの生産過剰問題の解決にも良い手だ」と評価した。

ウィリアムス社長は続いて、米政権に対して、法人税の高さを指摘した。「米国はブルーカラーの労働者を増やし、より良いブルーカラー向けの仕事を用意する必要がある。製造業の法人税を下げ、国際的に最も競争力のある製造業の拠点とすべきだ」と述べた。ジョージ上級副社長は「自由貿易は全ての労働者および消費者にとって利益となる。短期的には競争力が低い産業に対して(保護)貿易措置を行うことは意味があるが、長期的には間違ったアプローチであり、可能性に焦点を当て、継続的に発展を続けて国際競争に打ち勝つ必要がある」と助言した。

TPPについては、柯主席研究員が「『一帯一路』もTPPを補完するかたちで進められるだろう」とした。高原教授も、「一帯一路」はコネクティビティーに必要なインフラを構築するイニシアチブであり、TPPと「一帯一路」は性質が異なると主張した。ジョージ上級副社長は「企業が投資する際にはビジネスの全体像を踏まえて決定を行う。投資は20年以上の長期的なものであるため、(自由貿易協定の遅延のような)不透明性は歓迎されない」と指摘した。

中国について、高原教授は「習近平国家主席は改革を進めようと努めてはいるが、さらなる発展を阻害する問題の核心である国有企業改革などの問題に取り組むとは思えない」と指摘すると、ヴォ・シニア・エキスパートからは「中国の国有企業の課題は認識しているが、最大の課題とは考えていない。知的財産、電子商取引、情報処理、労働基準などがより大きな課題となる」との見方も示された。

セミナーの休憩時間および終了後に行われたレセプションでは、中国、香港、タイ、マレーシアの領事館およびイリノイ州の貿易振興団体などが各事業をビジネス関係者に対して紹介する場が設けられ、セミナーの登壇者を交えた意見交換を行った。

(河内章)

(米国)

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