保護主義国と名指し、ビジネス環境の改善求める-欧州委が「2016年度貿易・投資障壁報告書」を発表-

(EU)

ブリュッセル発

2017年06月28日

欧州委員会は6月26日、「2016年度貿易・投資障壁報告書」の概要を発表した。EU域内企業が2016年に直面した貿易の障壁は372件に達し、前年から約10%増加したという。セシリア・マルムストロム委員(通商担当)は「保護主義の台頭は明らかに勢いを増し、欧州企業とその雇用に影響している」と指摘。ロシアや中国などG20諸国を名指しし、7月開催予定のG20首脳会議でも保護主義に対抗する姿勢を打ち出すとしている。なお、日本を保護主義的と非難する記述はほとんどなく、日本と野心的な経済連携協定(EPA)を締結する意義を強調している。

2016年の貿易障壁は372件

「2016年度貿易・投資障壁報告書」によると、EUの輸出企業・事業者が2016年に直面した貿易に関する障壁は全世界で372件報告され、前年から約10%増加した。欧州委の試算によると、これらの障壁が奪ったEUからの輸出は約270億ユーロ以上になるという。

マルムストロム委員は「保護主義の台頭は明らかに勢いを増しており、欧州企業とその従業員に影響を及ぼしている」と述べ、この傾向は特にG20諸国で顕著であるとして、7月7~8日にドイツ・ハンブルクで開催予定のG20首脳会議では、「EUとして出席国首脳に対して保護主義に対抗する姿勢を示すべきと働き掛ける用意がある」「ルールを尊重しない国に対しては対抗措置も辞さない」とした。

欧州委は輸入障壁が顕著なG20諸国の中でも、ロシア、ブラジル、中国、インドを名指しし、「トップクラス」と断じた。これらは障壁として慣行化しているものも含まれるが、2016年に新たに報告された36件の保護主義的慣行では、ロシアとインドが顕著で、これにスイス、中国、アルジェリア、エジプトが続くとしている。

独自の取り組みで2016年の障壁を排除

他方、欧州委によると、EUと加盟国、その産業・企業が連携してビジネス環境を阻害する課題の解決に当たる「市場アクセス・パートナーシップ」と呼ばれる取り組みを通じて、障壁を解消・軽減することにも成功し、2016年には20件の障壁(12カ国が関与)については排除できたとしている。これらの障壁は韓国、中国、イスラエル、ウクライナなどで報告されていたもので、EUからの42億ユーロ相当の輸出に悪影響を及ぼしていたと指摘していた。

このEUとしての対策によって最もビジネス環境が改善した産業分野として、「食品・飲料」「自動車」「化粧品」「医薬品」などを挙げた。例えば、中国で販売される化粧品に対しては商品仕様などを現地語で表示する義務が課されているが、欧州の化粧品産業で広く行われているシール貼付による表示を中国当局が禁止しようとしたという。これはイタリアの化粧品企業からの報告で、経営上、中国向け製品のためだけにパッケージの生産ラインを別に設けることができず、中国市場参入が脅かされる事態となった。しかし、EUとしての働き掛けの結果、中国当局はシール添付の禁止を見送り、6億8,000万ユーロ相当の輸出についてビジネス環境の改善につながったと欧州委は分析している。

日本とのEPA交渉の大筋合意に期待

このほかマルムストロム委員は、EUとして貿易相手国との関係を深化させる意味で、自由貿易協定(FTA)などの通商協定が重要とした。同委員は現在、アジアや中南米との通商交渉に力点を置いているとしているが、中でも日本には首席交渉官を派遣し、日EU・EPAの交渉も詰めの段階に入ったとの認識を示した。首席交渉官に「妥結するまで(東京に)とどまるよう指示した」と語り、「われわれは早期に大筋合意できることを望む」と期待感を示した。

マルムストロム委員の見解では「日EU・EPAは『欧州の価値』と両立するグローバリゼーションの在り方を示す意義」があり、「現在のような(保護主義が台頭する)国際情勢の中で、野心的な日EU・EPAは、2大経済が保護主義に対抗しているというメッセージを世界に発信する好機になる」と語った。

また、メキシコとのFTAの近代化についても、交渉を進めるため数週間前までメキシコに滞在し、2017年末までに交渉を妥結することで、イルデフォンソ・グアハルド経済相と合意したことを明らかにした。

(前田篤穂)

(EU)

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