シドウォ首相が参加、関係強化に意欲-「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラム-

(ポーランド、中国)

ワルシャワ発

2017年06月13日

5月14~15日に北京で開かれた「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムに、ポーランドからはベアタ・シドウォ首相をはじめとする政府代表団が参加した。フォーラムに先立ち、シドウォ首相は習近平国家主席、李克強首相と会談し、経済関係の深化に向けたさらなる協力に合意するとともに、観光や水資源分野での協力について覚書(MOU)に調印した。

中国とはハイレベルで頻繁に往来

シドウォ首相が習国家主席、李首相と会談するのは今回が2回目。習国家主席とは2016年6月のワルシャワ訪問時に、李首相とは2016年11月にラトビア・リガで開かれた第5回中国-中・東欧首脳会議でそれぞれ会談している。もともと同首脳会議は2012年にワルシャワで初めて開催されて以来、毎年開催されており、2017年の後半にはハンガリーで開催の予定。2015年11月にはアンジェイ・ドゥダ大統領が訪中しており、両国間の政治関係は近年、緊密さを増している。ジェトロが政府関係者に確認したところ、2017年秋にもシドウォ首相が再び訪中する可能性もあるという。2016年6月の習国家主席の来訪時には、計22の協定や覚書(MOU)が結ばれた(2017年1月16日記事参照)。

今回結ばれたMOUのうち、水資源に関するMOUは、所管するポーランド環境省にジェトロが確認したところ、水管理に関する規制や政策の情報交換や、水インフラ建設・管理での協力などを規定している。具体的にはワークショップの共同実施や研究機関の相互交流促進などを行う予定で、実施のため、ポーランド・中国水資源管理共同運営委員会を設置する予定だという。観光に関するMOUでは、スポーツ・観光省によると、情報・パンフレットの交換や、両国で開催される見本市など各種イベントへの参加、観光客増加に向けた取り組みを推進すること、観光行政関係者やジャーナリストの招聘(しょうへい)などがうたわれた。

欧州の玄関口として「一帯一路」プロジェクトを重視

ポーランドは、中国から欧州への陸路での玄関口ともなっている。2013年4月に週1便の運行を開始した中国・成都~ポーランド・ウッジ間を結ぶ貨物鉄道は(2013年11月15日記事参照)、現在では中国から首都ワルシャワへ週3便、ワルシャワから中国へは週2便に運行回数を増やすまでになった。このほか、ワルシャワ西部のクトノ~成都間を結ぶ貨物鉄道も運行している。

国営鉄道貨物大手PKPカーゴも中国との貨物鉄道輸送を手掛けており、2016年6月に初めてワルシャワの同社ターミナルに貨物列車が到着した際には、ポーランドを訪問していた習国家主席とドゥダ大統領がこれを迎えた。2017年4月に同社親会社のPKPなど関係7ヵ国の鉄道運行会社と中国鉄路の間で、今後定期的な貨物列車の運行に向けて協力を進めていくために結ばれた協定は、「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムの成果として数えられた。PKPカーゴはさらに2017年4月10日、中国国内での物流展開に向け、環世物流集団(Worldwide Logistics Group)と協力協定を締結している。

シドウォ首相の訪中には、政府関係者に加え、国営鉱山運営大手KGHMのラドスワフ・ドマガルスキ・ワベンツキ社長、ならびに中央空港建設計画の政府代表を務めるミコワイ・ビルド氏も同行した。KGHMのドマガルスキ社長はポーランド通信(PAP)へのインタビュー(PAPビジネスデイリー5月17日付夕刊)に対し、中国冶金科工集団(MCC)と鉱山建設子会社PeBeKaとのカザフスタンやモンゴルなど「一帯一路」沿線国での合弁事業の可能性について議論しており、数ヵ月内に最初のプロジェクトが発表されるだろう、との見通しを示した。PeBeKaは5月13日、MCCのグループ会社と趣意書(LOI)を結んだと発表している。なお、ドマガルスキ氏は、2016年10月に経済開発省政務官からKGHM社長に転じたが、それ以前にポーランド企業の中国法人の社長を7年間務めた経験がある。

中央空港の建設については、現在のハブ空港であるワルシャワ・ショパン空港の許容量が限界に近づいていることから、政府は10年後をめどにワルシャワとウッジの間に建設することを2017年3月に決定している。計画の具体化はまだこれからだが、報道では、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の投資の可能性もうわさされている。

経済関係は政治関係ほど強くないのが実態

シドウォ首相は今回の北京訪問中に、現地企業や投資ファンドの代表らとも会談した。中国企業によるポーランドへの投資可能性などが議論されたもようだ。また、首相府の発表(5月12日)では、中国はアジアではトルコに次ぐ第2の輸出相手国であること、2016年6月にはリンゴの輸出が開始され、ポーランドの食品業者にとって大きな可能性を秘めた市場であること、ポーランドからの鶏肉の輸出は年15~20%の伸びを示していることを強調した。

ただし、実態をみると、政治関係ほどに経済関係は強まっていない。「ガゼッタ・ビボルチャ」紙(電子版5月12日)は、政府が成果を強調する一方で、2016年の中国向け輸出が2010年代に入ってから初めてマイナスに転じたことを報じ、中国との貿易赤字は年々拡大していることを指摘した。また、鳥インフルエンザの影響で、中国への鶏肉輸出は現在、停止している。統計局(GUS)のデータをみると、2016年のポーランドの中国向け輸出は75億1,000万ズロチ(約2,253億円、1ズロチ=約30円)で前年比1.3%減だった。ズロチベースで前年比マイナスを記録したのは、2005年以来となる。投資についても、2016年にポーランド投資・貿易庁(PAIH)が支援した案件は、アルミ合金の蘇州春興精工の1件にとどまっている。

(牧野直史)

(ポーランド、中国)

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