上院、ライトハイザー氏のUSTR代表就任を承認-トランプ政権の通商政策が本格始動へ-

(米国)

ニューヨーク発

2017年05月18日

 米国通商代表部(USTR)代表に指名されていた元USTR次席代表のロバート・ライトハイザー氏が5月11日、上院で承認された。15日の宣誓式で、同氏はトランプ大統領の掲げる米国第一通商主義を推進していく考えを示した。既に商務長官に就任しているウィルバー・ロス氏とともに、通商政策を担う体制が整ったことで、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉をはじめ、トランプ政権の通商政策が本格的に始動するとみられる。

「米国の危険な貿易政策の転換」への貢献誓う

上院は5 月11 日、元USTR次席代表ライトハイザー氏(69歳)のUSTR代表就任を承認した。採決は賛成82票、反対14票で、野党の民主党議員からも広く支持を集め、圧倒的多数で承認された。トランプ政権の閣僚の中では唯一、承認が残されていたポストで、これによりトランプ政権の閣僚が全員承認されたことになる。ライトハイザー氏は1月3日にトランプ大統領から指名を受けていたが、同氏が過去に外国政府のための業務に従事しており、1974年通商法に抵触すると民主党から指摘され、その免除条項の適用をめぐり、民主党との駆け引きに時間を要していた。

指名承認を受け、5月15日にホワイトハウスで宣誓式が執り行われた。マイク・ペンス副大統領は冒頭のあいさつで、「第18代USTR代表の就任をお祝いする。トランプ大統領は米国第一の貿易を実現するために戦うと米国民に約束した。ライトハイザー氏の指名はトランプ大統領がその約束を守り続けていることを示すものだ」と語った。続いて、ライトハイザー氏は「この会場に来ている自分の孫たちは、さらにその孫たちにトランプ大統領は米国の貿易の危険な軌道を『米国第一』に永続的に転換させたと語り継ぐだろう。そうしたトランプ大統領の功績に少しでも貢献したい」と抱負を語った。また、「通商交渉や通商法の執行を通じ、輸出市場へのアクセスを拡大することで、米国の労働者や農家などのために賃金を引き上げ、競争上の公平性を確保する」との方針を示した。

米国産業界の国際弁護士として30年以上のキャリア

USTRのウェブサイトによると、ライトハイザー氏は1983年、ロナルド・レーガン政権時にUSTR次席代表に就任し、鉄鋼、自動車、農産物など24を超える通商協定に関わった。その後、法律事務所で鉄鋼など重工業、農業、ハイテク産業、金融サービスなどの企業、業界を代表する弁護士として、30年以上にわたり通商分野で活動してきた実務家だ。米国鉄鋼協会(AISI)は、ライトハイザー氏の上院承認を歓迎する声明を発表している。

ライトハイザー氏が政権発足100日以上を経て、ようやくUSTR代表に承認されたことで、既に商務長官に就任しているロス氏とともに通商政策を実施していく体制が整ったといえる。USTRは3月1日、「2017年の通商政策の課題」を発表し、国内法に基づき、アンチダンピング関税、相殺関税、セーフガード措置、不公正な貿易慣行に対する報復措置を厳格に執行していく方針を示している(2017年3月8日記事参照)。さらに、トランプ大統領は3月31日に貿易赤字の要因分析を指示する大統領令(2017年4月10日記事参照)に署名、4月20日には鉄鋼、同27日にはアルミニウムの輸入が国家安全保障へ影響調査を指示する大統領覚書に矢継ぎ早に署名し、貿易救済措置や報復措置の厳格な執行に向けた準備を始めている。

今後、注目されるのはNAFTAの再交渉開始だ。大統領貿易促進権限(TPA)法の規定により、政府は交渉開始の90日以前に議会に通知する必要があるが、同通知はライトハイザー氏のUSTR代表就任を待って行われるものとみられてきた。このため、再交渉の議会への通知は間もなく行われ、早ければ8月下旬にも交渉が開始される可能性がある。また、対中や対日貿易赤字に関しても、具体的にどのような対応をするのか注目される。ライトハイザー氏は、5月19~23日にベトナム・ハノイで開催されるAPEC貿易相会合に出席する予定で、通商政策についてどのような方針を示すかに関係者の関心が集まっている。

(若松勇)

(米国)

ビジネス短信 96afeb25aeb5d165