欧州委、対外FTAの農業交渉に意欲示す-欧州最大の農業生産者団体の意見書に回答-

(EU、日本、ベトナム、南米南部共同市場(メルコスール))

ブリュッセル発

2017年05月10日

 欧州委員会は、欧州最大の農業協同組合・農業生産者団体COPA-COGECAに5月5日付で出した書簡を公表し、現在交渉が進められている日本や南米南部共同市場(メルコスール)などとの自由貿易協定(FTA)交渉の農産品分野において、具体的なEU側の成果確保を目指す姿勢を明らかにした。COPA-COGECAは、これに先立って欧州委に意見書を提出しているが、その中で日本との経済連携協定(EPA)を「欧州・農業部門の貿易収支の改善が期待できる唯一の通商協定」と位置付けている。

食品・農産品分野での野心的な成果実現を目指す

欧州委のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)は、COPA-COGECAのペッカ・ペショネン事務局長に宛てた書簡(5月5日付)を公表し、現在、交渉が進められている日本やメルコスールなどとのFTA交渉の農産品分野において、EU側としての具体的な成果を取りにいく考えに言及した。この書簡は、COPA-COGECAが3月10日付で欧州委に提出した意見書に対する回答として出された。

COPA-COGECAはこの意見書の中で、日本とのEPAを「欧州の農業分野で貿易収支の改善が期待できる唯一の通商協定」と総括し、対日交渉への強い期待感を示した。他方、「交渉成果に不透明感があることについては強い懸念を表明する」との考えも示し、「日本との通商交渉で、EU側が求める成果についての妥協は認めない」との厳しい姿勢を明らかにしていた。

これに対して、マルムストロム委員は「日本とのEPA交渉において最善の成果を求めるCOPA-COGECAの期待には留意している。欧州委は食品・農産品を含む全ての項目で、野心的な成果の実現を目指している」と述べ、COPA-COGECAの期待に即して積極的な交渉を進める考えだ。これは現在、EUが交渉しているその他のFTAも同様としており、EU・ベトナムFTAについては「今後の数ヵ月で、EU加盟国に対して批准手続きに入る」との見通しを明らかにした。

対メルコスールのSPS交渉では妥協せず

他方、対メルコスール交渉について、COPA-COGECAは意見書の中で、「衛生植物検疫措置(SPS)」分野での交渉進捗を強く欧州委に求めた。COPA-COGECAは「欧州の農業生産者は、EU域内で食品安全性の観点で禁止されている慣行を許容するような(対外FTAにおける)SPS条項は一切認めない」としている。具体的には「EUの食品安全基準やアニマル・ウェルフェア基準(家畜の快適性に配慮した環境整備を通じ家畜のストレス軽減や動物疾病の制圧を目指す飼養管理指針)は交渉の中で妥協できる項目ではない」としている。また、養鶏分野で「EUでは禁止されている、動物性タンパク質の飼料利用などがメルコスールでは容認されている点も問題」と指摘。アニマル・ウェルフェア基準の運用について「EUとメルコスールの農業生産者の慣行では大幅な乖離がある」との見方を示し、「EUではアニマル・ウェルフェア基準の違反に対して販売禁止を含めた厳しい運用が行われており、100キロ当たりの想定利益が0~60ユーロとされる畜産分野で、EUの農業生産者はアニマル・ウェルフェア基準への対応に3~5ユーロものコストをかけている」と現状を説明し、対メルコスールのSPS交渉でEUの厳しい姿勢を求めた。

これに対して、マルムストロム委員は「EU域内市場で販売されている商品に課されているSPSやアニマル・ウェルフェアの高い基準はWTOなどの国際基準と同様に配慮されるべきで、EU域内に輸入される全ての商品がEU域内で適用されている基準に例外なく準拠しなければならない。このことは対メルコスールに限らず、その他のFTAについても同様だ」と回答。SPSやアニマル・ウェルフェア基準の交渉対応で、欧州委が安易な妥協をしない姿勢を示した。

(前田篤穂)

(EU、日本、ベトナム、南米南部共同市場(メルコスール))

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