米国とのFTAに期待と不安が交錯
(英国、米国)
ロンドン発
2017年02月03日
トランプ米大統領は、就任後初の首脳会談の相手として英国のメイ首相を指名、1月27日の会談では2国間自由貿易協定(FTA)の締結などが話題に上った。トランプ大統領はFTAの早期締結に意欲を示しているが、英国にとってメリットのある合意を得るには難関も多いと分析されている。
<両国首脳ともFTA交渉に意欲>
トランプ大統領の就任に際し、「フィナンシャル・タイムズ」紙(電子版1月22日)のインタビューに応じたメイ首相は、米英間の「特別な関係」の維持に意欲を示し、そのためには両国首脳の率直な意見交換が必要と語った。
一方のトランプ大統領も、就任直前に「タイムズ」紙(電子版1月16日)が行ったインタビューで、2国間のFTA交渉の早期着手・合意を目指すと発言、これを裏付けるかのように就任後最初の首脳会談をメイ首相と行うこととなった。
首脳会談は1月27日に行われ、その後の会見でメイ首相は、技術力の高さなど両国市場に親和性があることも踏まえ、将来的なFTA締結に向けハイレベルの対話を早急に開始するとし、米国との交渉にあらためて意欲を示した。そして、EU離脱という選択を下した中で、英国にとっては米国との2国間経済関係が極めて重要だと強調した。
<交渉の阻害要因も多数>
英国にとって米国は最大の輸出相手国であり、政府は米国との経済関係の維持・発展を模索するが、実現に向けた障害も少なくないとされる。
まず、BBC(英国放送協会)は、今回の会談でメイ首相はFTA締結についてトランプ大統領から好意的な見解を引き出したものの、具体的な内容に欠けていたと指摘した。
「フィナンシャル・タイムズ」紙(電子版1月23日)は、両国間の貿易は財、サービスとも英国の黒字、米国の赤字となっているが、貿易収支の黒字・輸出超過を是とするトランプ大統領がFTAに期待するのは米国産品の輸出増加だと指摘。また、分野別にみると、英国が得意とするのは金融サービスだが、先行するEUと米国の包括的貿易投資協定(TTIP)交渉において金融規制の相互認証が交渉長期化の要因の1つとなっていることからも、英国には厳しい交渉が待ち受けるとしている。米国政府は海外金融機関の米国内での活動を管理する意向とみられるが、英国がEU離脱を決めた背景に自国以外で決められた規制に束縛されることへの嫌悪感があることを考慮すれば、この分野を含めた合意を得るのは容易なことではなさそうだ。
「ガーディアン」紙(電子版1月29日)によると、既に両国間の貿易は流動性が確保されているにもかかわらず、「米国第一」主義のトランプ大統領と交渉を行うことは、これまで農産物輸入などから英国産業を保護してきたEUのセーフガード措置などを喪失することしか意味しないとして、最終的には英国企業が米国の多国籍企業との競争にさらされ損害をこうむるとの見方を示す。トランプ大統領がFTAに望んでいるのは「自由な貿易(free trade)」ではなく「ただ乗り(free ride)」だと手厳しい。
<ビジネス環境の不確実性を懸念する日系企業も>
産業界では英国経営者協会(IoD)が会員の声を紹介している。オバマ前大統領が「英国は米国との自由貿易交渉待ちの列の最後尾に並ぶこととなる」と発言したのに比べて、トランプ大統領の前向きな姿勢を評価し、両国に便益をもたらす経済関係の構築が可能という意見や、米国経済と中国やロシアとの関係に関心を持つトランプ大統領にとって英国との経済関係の構築は優先順位が高くない、とする見方などが混在している。
ある在英日系メーカーは、自社のビジネス領域がトランプ大統領の関心の対象となることを懸念しており、製造拠点の米国内への移転を迫られるような事態にならないか、情勢を注視したいという。また、政治経験のないトランプ大統領の次の一手が予測できないことがビジネス環境の見通しを不透明にするとし、この不透明性・不確実性が世界経済の縮小につながる可能性もあると警戒している。
(佐藤央樹)
(英国、米国)
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