周辺諸国との貿易活性化やEUとのFTA交渉加速に期待感－トランプ米大統領就任に対する見方－

＜メキシコの関心がブラジルに向かう可能性＞

　米国とメキシコの通商関係の変化やメガFTA形成の停滞が懸念される中、「エスタード」紙（電子版1月22日）は、メキシコ、チリ、コロンビア、ペルーから成る太平洋同盟諸国が、南米南部共同市場（メルコスール）諸国との貿易にこれまで以上に高い関心を示す可能性について言及している。貿易研究センター財団（FUNCEX）も、メキシコ製品の米国市場へのアクセス条件が悪化すれば、メキシコにとってブラジルとの既存の経済補完協定（ACE）54号や55号を深化させるインセンティブが働くと分析する。

　ブラジルとメキシコ間の貿易は、2009年から2015年までブラジル側の貿易赤字が続いていたが、2016年は貿易黒字に転じた。しかし、2016年後半以降のメキシコ・ペソの下落とブラジル・レアルの上昇により、メキシコ製品の価格競争力が増している。メキシコとの経済補完協定については、既に53号（締結国：ブラジル、メキシコ）、54号（ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ）、55号（54号と同じ）がある。自動車協定である55号については更新期間（2015年3月19日から4年間）が定められており、安易に見直しできる状況にはない。ただし、国内市場が低迷する中、ブラジルは自動車をはじめとするメキシコへの輸出拡大を志向しており、メキシコ側の関心がブラジルに向かう可能性があるとすれば好材料といえる。

＜2009年以降はブラジルの対米貿易赤字続く＞

　駐米ブラジル大使のセルジオ・アマラウ氏は「米国にとってブラジルは優先順位が高い国ではないため、標的になる可能性は低い」と述べている。ブラジルの対米貿易は2009年以降ブラジル側の貿易赤字が続いていることも、通商面で米国のブラジルへの関心が低い要因だろう（図参照）。

　一方、ブラジル工業連合（BIC）専務理事のアントニオ・ジョジーノ・メイレーレス氏は、自国製品の購入を後押しするバイ・アメリカンなど、米国第一主義を掲げるトランプ大統領の保護主義的な政策の間接的な影響は出てくるとの見方を示した。また、2国間貿易を推進する米新政権の方針により、米国とメルコスール諸国がこれまで以上に接近する可能性もあるとした。

　ちなみに米国は、ブラジルの貿易相手国としては2016年の輸出で2位、輸入では1位。貿易額全体に占める割合は、輸出が12.5％で、輸入は17.3％とわずかに中国（17.0％）を上回った。輸出では、米国の堅調な自動車市場を受けて乗用車が増えている。

＜ブラジルが追い付く時間与えるメガFTA交渉の停滞＞

　ブラジルの主要輸出産品の構成から、TPP署名国の中ではオーストラリアとニュージーランドに、そしてEU・米国間の包括的貿易投資協定（TTIP）交渉参加国では米国に、競争条件で劣後する点が懸念されていた。通商問題に関する独立系シンクタンクである統合・開発研究センター（Cindes）エコノミストのサンドラ・リオス、ペドロ・ベイガ両氏はその論文（注）の中で、通商協定の中でも財の貿易に議論を集中させたいブラジルにとって、交渉テーマがサービスや投資など広範囲に及ぶメガFTAの停滞は好都合だ、と分析している。さらに、世界的なFTA網形成の流れに大きく乗り遅れてきたブラジルにとり、米新政権による通商政策の見直しは、より包括的で自由化の水準の高い協定である前述のメガFTAにブラジルが追い付くための時間的猶予を与えてくれるという見方だ。

　なお、メルコスールとEUのFTA交渉に関し、EUのセシリア・マルムストロム欧州委員（通商担当）は、米国の保護主義的な政策が広がるリスクを懸念し、メルコスールとEUの早期FTA発効を目指したいと発言した（「バロール」紙1月20日）。また、3月にはブエノスアイレスで両ブロック間の交渉が行われることも明らかにしている。欧州は2017年に主要国で選挙が行われる予定で、米国の通商政策の変更とともに、こうした政治日程も交渉の行方に影響するだろう。

（注）「ブレグジットとトランプの時節にあるブラジルの通商政策：通商交渉の余地はあるか」（「RBCE」誌129号）。

（辻本希世）