トランプ米政権の保護主義的姿勢に警戒感

(シンガポール、米国)

シンガポール発

2017年02月10日

 シンガポール経済は貿易依存度が高く、これまで自由貿易やグローバル化の恩恵を受けてきただけに、政府はトランプ大統領就任に当たって自由貿易の意義・成果をあらためて強調し、メディアなども同大統領の保護主義的な姿勢に警戒感を示している。同大統領が環太平洋パートナーシップ(TPP)離脱の大統領令に署名したことに関しては、他の加盟国と協議を続けるとする政府に対して、産業界は米国抜きでも協定発効を目指すべきだと働き掛けている。

<首相は自由貿易の意義・成果を強調>

 リー・シェンロン首相は1月20日付のトランプ大統領宛書簡で祝意を示しつつも、「(米国・シンガポール自由貿易協定は)投資を促進し、輸出を増やし、両国に多くの雇用を生み出してきた」と、同大統領の保護主義的な発言を牽制した。さらに、米国大統領選後にトランプ氏に宛てた2016年11月10日付の祝辞(2016年11月18日記事参照)と同様に、「米国で2万社以上の中小企業が両国間の貿易で利益を得ており、米国は対シンガポール貿易で常に黒字を計上している」と強調した。

 

 1月22日付の「ストレーツ・タイムズ」紙の解説記事は、トランプ大統領が就任演説で「(自国産業や雇用の)保護こそが素晴らしい繁栄と強さをもたらす」と述べたことに関し、「自由主義諸国の盟主であるはずの米国が、保護こそが繁栄と強さをもたらすと主張したのは驚きだ」と批判した。また、23日付の社説では、「米国に雇用を取り戻すための保護主義的な手段は、米国内だけでなく海外にも懸念を及ぼしている」とし、「近視眼的な米国第一主義を採用して他の国々に打撃を与えれば、それは不快な反応を被るだけだ」とした。

 

<米国抜きでもTPPは企業に多大な利益>

 トランプ大統領が1月23日にTPP離脱に関する大統領令に署名したことに対しては、政府と産業界の意見は異なっている。

 

 貿易産業省は1月24日付の声明で「米国の参加なしではTPPは発効できない」としつつ、TPPの今後については、「まずは他の加盟国と協議しなければならない。それぞれの加盟国は(米国抜きでの)新たな利益のバランスを注意深く検討しなければならないだろう」と述べた。そして、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)やアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想など地域統合に向けたイニシアチブが進行していることに触れ、「シンガポールはこれらのイニシアチブに引き続き参加していく」とした。

 

 一方、シンガポール・ビジネス連盟(SBF)は政府に対し、米国抜きでもTPP協定の発効を目指すよう求めている(「ストレーツ・タイムズ」紙1月25日)。SBFのホー・メンキット会頭は「米国市場は既にかなり開かれていることから、米国抜きでもTPPは企業にとって多大な利益をもたらす」と述べ、さらに1月27日付「ストレーツ・タイムズ」紙へのアジア貿易センター(ATC)のデボラ・エルム所長との共同寄稿でも、「TPPは11ヵ国の方が企業にとっては利益となるかもしれない」と指摘し、その理由を「米国との直接的な競争が抑制されるため」と説明した。加えて同会頭は、TPPは他のどの貿易協定よりも21世紀のビジネスパターンに合致した内容となっていること、TPPの国別のコミットメントや関税譲許表によれば、加盟国の企業はほぼ全ての産業で相当の恩恵を享受できることを強調した。

 

 また、この問題に関しては民間エコノミストの間でも意見は分かれている。CIMB銀行エコノミストのソン・センウン氏は「TPPが頓挫したことによりシンガポールが国際貿易に参加する手段が減った」と述べた(「ビジネス・タイムズ」紙1月25日)。一方、地場大手銀行DBSのエコノミストのアービン・シア氏は、シンガポールがTPP加盟国のうちカナダとメキシコを除く国々と2国間自由貿易協定(FTA)を締結済みであるため、米国がTPPを離脱しても「シンガポールにそれほど打撃となることはない」と指摘する(「ストレーツ・タイムズ」紙1月25日)。

 

(小島英太郎)

(シンガポール、米国)

ビジネス短信 5be9de4127b5e25d