国境サービス庁、全てのFTAで自己証明制度を採用

(カナダ)

米州課

2017年02月08日

 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の進展が止まっているが、もし同協定が発効したと仮定した場合、その関税削減効果の恩恵を得るには、協定の手続きにのっとり、原産地証明書の準備や税関からの問い合わせに対応する必要がある。カナダの自由貿易協定(FTA)の運用状況やTPPへの準備はどうなっているのか。カナダ国境サービス庁(CBSA)へのヒアリング調査(平成27年度TPP原産地証明制度普及・啓発事業)などを基に報告する。

<税関面で大幅な制度変更は必要なし>

 TPP協定第3章21条では、輸入者、輸出者または生産者のいずれかが原産地証明書を作成する自己証明制度が規定されている。日本はこれまで締結した経済連携協定(EPA)/FTAにおいて、日本商工会議所が原産地証明書を発給する第三者証明制度を採用している(注)。これに対し、カナダは北米自由貿易協定(NAFTA)をはじめ全てのFTAで自己証明制度を採用している。

 

 CBSAでFTAの運用業務を担当するブレンダ・グーレ氏はジェトロの取材に対し、「NAFTAを長年運用してきたことから、類似のルールを有する新しいFTAが発効した場合でも大幅な制度変更は必要ないと理解している」と語る。CBSAはほぼ全てのFTAに関して原産地証明書の電子フォーマットをウェブサイトに公開しており、事業者はそこに必要事項を記載すれば証明書が発行される仕組みになっている。輸出入に関する手続きの大半も同サイトの窓口eManifestで電子化されている。

 

 TPP第5.3条では、関税分類や適用税率、輸出する貨物が原産品に該当するかどうかなどに関する事業者からの問い合わせに150日以内に回答する、事前教示制度の実施が義務付けられている。カナダの関税法では120日以内に製品がFTAの対象となる原産品かどうか、FTAで合意されたその他の事項および製品が該当する関税分類を回答することが定められており、この点でも運用に支障はない。CBSAは事前教示の回答例をウェブサイトで公開しており、カナダへの輸出を検討する日系企業は過去の事例を参考にできる。

 

 CBSAによると、相談内容としては関税分類を確認するものが多く、2016年4~7月の事前教示に基づく関税分類に関する問い合わせは673件、原産性の判定に関する問い合わせは9件だったという。

 

<事業者への確認も効率的に実施>

 通関処理でも、カナダは世界トップレベルの税関機能を有する。世界銀行によると、自動車部品に限ればカナダの輸入手続きにかかる時間は平均2時間で、短いという(図参照)。

図 輸入通関手続きの平均所要時間(国別)

 輸入国税関は事業者に対して、TPPを介して輸入された製品が原産品であることを確認するため、書面または訪問による情報照会を行うことができる(TPP第3章27条)。事業者には輸入者のみならず輸出者、生産者を含む。CBSAは無作為もしくはリスク分析に基づく照会先の選定を行う。リスク分析に関しては、これまで手続きを順守しているかなどを考慮するほか、意図的に確認された経験のない企業に照会することで注意を促す場合もあるという。

 

 グーレ氏は「よくある確認内容は輸入時のインボイスと原産地証明書の関税分類の相違など軽微なもので、相違がある場合はさらなる情報の開示、もしくは必要に応じて証明書の再発行を要請する可能性がある」と語る。2015年度(2015年4月~2016年3月)に実施した検認は142件で、ほとんどがNAFTAに関連するものだった。陸続きである米国には必要に応じて訪問しているという。

 

(注)日本は、オーストラリアとのEPAで自己証明制度を採用しているものの、同協定は第三者証明制度との併用制となっている。また、メキシコなどとのEPAでは、経済産業大臣から認定を受けた輸出者自らが証明書を作成する「認定輸出者自己証明制度」が併用で採用されている。

 

(藪恭兵)

(カナダ)

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