拡大する消費市場、投資先としても注目-「中・東欧最新経済動向セミナー」を東京で開催-
(ポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、スロバキア、南東欧)
欧州ロシアCIS課
2017年01月04日
ジェトロは2016年12月7日、「中・東欧最新経済動向セミナー」を東京で開催した。EU加盟から約10年を経て、近年の安定した経済成長を背景に、生産拠点だけでなく消費市場としても拡大している中・東欧諸国のビジネス環境や日系企業の動向に加え、南東欧のビジネス環境などについて、各国に駐在するジェトロ事務所長が解説した。セミナーには企業関係者ら117人が参加した。
<安定した経済成長、大規模投資が相次ぐポーランド>
ワルシャワ事務所の牧野直史所長は、「ポーランドは中・東欧諸国の中でも最も安定した経済成長を遂げており、投資先としても、消費市場としても関心が高まっている」と指摘した。高速道路などのインフラ整備はここ数年で急速に進み、自動車、白物家電や航空機など幅広い製造業の集積が進んでいる。欧州最大のビジネスセンター集積地でもあり、日系によるもの含め、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)やシェアードサービスセンター(SSC、注1)の投資案件も拡大している。人口3,800万人を抱え、消費市場としても可能性は大きく、日系企業の進出も増えている。EU補助金の国別割当額はEU加盟国の中で群を抜いて多く、「多額のEU補助金が振り分けられる鉄道や廃棄物などインフラプロジェクトは、日本企業にもビジネスチャンスとなり得る」と話した。
英国のEU離脱(ブレグジット)については、外国人としては最大の90万人以上のポーランド人が英国にいることから、在英ポーランド人の権利確保などの論点がある一方、英国内にある拠点移転への期待も高まっているという。日本との関係は、2015年夏からの双方向でのワーキングホリデーの実施や2016年1月のワルシャワ~成田間の直行便就航で、大幅に活性化しているとした。
<インダストリー4.0で先行するチェコ>
プラハ事務所の村上義所長は、「民間の設備投資と消費が成長を支え、2017年のチェコ経済の成長率見通しは2.5%。失業率は4%を切る」と、好調ぶりを解説した。消費市場動向としては、西欧地域に比べた治安の良さや中国・韓国とプラハとの直行便就航により、世界中から観光客数は増加している。インフラビジネスでは、廃棄物処理ビジネスが活発化しているとして、「自治体による廃棄物分別回収の義務化、2024年以降の一般ごみの埋め立て禁止など、廃棄物処理ビジネス拡張の条件がそろっている」と分析した。また、インダストリー4.0への対応は中・東欧でチェコが先んじていることを強調した。「政府は2016年8月にチェコ版インダストリー4.0アクションプランを閣議決定し推進している。2017年には教育、労働など各分野で検討されているインダストリー4.0に対応したアクションプランを束ねた『社会(ソサエティー)4.0』を発表したほか、チェコ工科大学で始まるテストベッド(注2)プロジェクトや日本へのロボット・人工知能(AI)ミッション派遣などが予定されている」と説明した。
<ハンガリーは減税効果で消費市場が活性化>
ブダペスト事務所の本田雅英所長は、「リーマン・ショック以降低迷を続けたハンガリー経済は、消費と自動車生産などの輸出産業が牽引して成長軌道にある」とし、次のように解説した。政府は輸出を支える自動車関連産業を中心に支援して環境整備を行っており、電気自動車分野の新規投資や追加投資が続いている。減税効果で消費市場のビジネス展開に活気があり、小売業の実績も好調、乗用車販売市場も拡大している。体制転換から25年が経ち、社会主義を知らない世代のビジネスや消費行動が注目される。2017年には最低賃金の引き上げが決定しており、個人消費を押し上げることが期待される。英国のEU離脱の影響は限定的で、難民問題による混乱もない。日本のモノやサービスを売り込む機会が到来した。
<IT産業への新規投資が盛んなルーマニア>
ブカレスト事務所の水野桂輔所長は、「(欧州委員会が2016年11月に発表した秋季経済予測は)2016年のGDP成長率予測を5.2%に上方修正し、EU28ヵ国で最も高い」とルーマニア経済の好調さについて述べた。安定した労働力事情として、賃金水準は中・東欧の主要国よりも低いが、最低賃金の上昇や失業率の改善から、地域によってはワーカーの確保に加え、技術者やマネジャークラスを雇うのが難しくなりつつある。日系企業の投資に関しては、自動車分野が目立つものの、ゲーム関連の進出も注目される。ハイテク・知識集約型ビジネスへの投資も増加している。IoT(モノのインターネット)市場については、日系企業により農業や自動車関連でもビジネス拡大の兆しがみられる。また、スマートシティーの議論では、デジタル戦略として日系企業との連携による動きもみられるとして、水野所長は「投資の新しい流れとしてはIT関連産業が盛んだ。もはや、安い労働力のみを求めて進出する投資ではなくなってきている」と力説した。
<徐々に魅力増すスロバキアと南東欧諸国>
ウィーン事務所の阿部聡所長は、「経済発展やインフラの整備により、スロバキアと南東欧諸国の投資先としての魅力は徐々に増している」と述べた。南東欧については、地域全体として捉えるべきであり、一方で、経済、政治、民族、宗教、言語など多様性がある地域でもある。リーマン・ショック時に激減したこの地域への投資は回復し、生産拠点としての各種インフラ(交通インフラや政府による進出支援など)も整備されてきているとともに、これらインフラや優秀な人材に支えられて総体的な生産性が高い国もあるとして、スロバキアとスロベニアについて、次のように述べた。「スロバキアは産業基盤が盤石で、経済は安定し、特に自動車産業には政府も手厚い支援をした結果、欧州の主要な自動車生産拠点の1つとなっている。スロベニアは日本を戦略提携国の1つにしている。また、コンテナやバルク貨物の輸送では、上海とミュンヘンを最速で結ぶといわれるコペル港が急成長しており、地域全体での活用が可能だ」。
セミナー会場には、中・東欧6ヵ国(ポーランド、チェコ、ルーマニア、ハンガリー、スロバキア、スロベニア)の在日大使館や投資誘致機関による情報提供ブースが設置され、担当者から熱心に説明を受ける参加者も多かった。
(注1)シェアードサービスとは、会社、組織に散在する共通業務を1ヵ所に集約・標準化して人件費や諸経費のコスト削減と業務の効率化を図る手法のこと。
(注2)大規模なシステム開発で用いられる、実際の運用環境に近づけた試験用プラットフォームのこと。
(田村典子)
(ポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、スロバキア、南東欧)
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