ワーカー賃金、為替の影響で英国やロシアが順位下げる-2016年度「投資関連コスト比較調査」-

(欧州、ロシア、ウズベキスタン)

欧州ロシアCIS課

2016年12月16日

 ジェトロが欧州、ロシア、CIS地域を対象に実施した2016年度「投資関連コスト比較調査」によると、賃金上昇率は中・東欧、ロシア、ウズベキスタンが大きく、賃金水準は西欧が高い状態が続いた。西欧では、景気回復を反映して、賃金上昇率が前年より高まった国が目立った。また、英国のEU離脱やEUによる対ロシア経済制裁などにより、対ユーロで現地通貨安となった英国やロシアは、ワーカー(一般工)の月額賃金の国順位が下がった。税制では中・東欧の一部の国で税率の引き下げがあった。

<ユーロ圏の名目賃金上昇率は前年より高い傾向>

 2015年の名目賃金上昇率は、ユーロ圏諸国は総じて3%以下に収まっていたものの、ベルギー(ブリュッセル)とスロバキア(ブラチスラバ)を除き、2014年よりも上昇率が高いか、同率で推移した。ユーロ圏の景気回復〔GDP成長率1.2%(2014年)→2.0%(2015年)〕を反映したものとみられる。英国(ロンドン)は賃金の伸び率が倍増した(1.22%→2.46%)。一方、中・東欧諸国は2014年と同様に高い伸びがみられ、特にルーマニア(ブカレスト)は一部の公務員給与の引き上げ(2015年9月16日記事参照)の影響もあり、9.8%と伸びが大きかった。一方で、ロシアとウズベキスタン(モスクワ、サンクトペテルブルク、タシケント)の伸び率は高いものの、2014年と比べると鈍化したため、中・東欧との伸び率の差は縮まった。ウラジオストクの伸び率は20.7%、タシケントは10.0%、サンクトペテルブルクは7.9%、モスクワは5.1%だった。

 

 西欧に比べて、中・東欧、ロシア、ウズベキスタンの名目賃金上昇率は高いものの、西欧との賃金水準の格差は依然として大きい。2016年度(調査時点)のワーカーの月額賃金(幅がある場合は中央値)を比較すると、上位の都市は前年調査とほぼ変わりなかった。最も高いのがジュネーブ(5,939ユーロ)、次いでデュッセルドルフ(3,605ユーロ)、ストックホルム(2,975ユーロ)、ブリュッセル(2,875ユーロ)だった(図参照)。一方、ワーカーの賃金が低いのは、タシケント(441ユーロ)、ウラジオストク(246684ユーロ)、ブカレスト(483678ユーロ)だった。また、英国、ロシア、ウズベキスタンの都市は、2015年度よりも順位を下げた。この背景には、英国のEU離脱やロシア経済制裁などにより、各国の現地通貨の対ユーロの為替レートが1年前より現地通貨安となったことがあると考えられる。

図 都市別ワーカー(一般工)月額賃金

 エンジニアの月額賃金(平均値)は、高い方からジュネーブ(7,913ユーロ)、デュッセルドルフ(5,097ユーロ)、ブリュッセル(4,845ユーロ)の順だった。ジュネーブはトップの地位を維持し続けており、安定的かつ圧倒的な賃金水準の高さは際立っている。

 

<中・東欧の一部で所得税など税率引き下げ>

 税制に関しては、欧州、ロシア・CISともに2015年から大きな動きはなかったものの、中・東欧の一部では税率が引き下げられている(2017年の予定を含む)。ハンガリーは個人所得税(実施済み、16%→15%)、ポーランドは法人所得税(20171月から一部の企業に対して、19%→15%)、ルーマニアは付加価値税(20171月から、20%→19%)が、それぞれ引き下げられている。

 

 なお、本調査は、在欧州、ロシア、CISのジェトロ事務所を通じて現地政府機関、関連企業、進出日系企業、現地日系商工会議所などから2016810月時点の情報を収集した結果をまとめたもの。賃金、税制のほか、土地代、輸送費、公共料金などを調査し、2016822日時点の銀行間レートでドルまたはユーロに換算した。データは一部都市を除いて、ジェトロ投資コスト比較調査ウェブサイトに掲載の予定。

 

(古川祐)

(欧州、ロシア、ウズベキスタン)

ビジネス短信 cdc9ec83bc48e834