労働契約解除は法定条件と手順に従い慎重に-天津で進出企業支援セミナー開催(4)-

(中国)

北京発

2016年12月02日

 ジェトロが天津市で開催した進出企業セミナー報告の最終回。中国では従業員をリストラ(人員整理)する際のリスクは極めて高く、人員整理に向けた環境づくりも容易ではない。広東敬海(天津)法律事務所の李華明弁護士が、裁判で合理的と見なされる場合の注意点を解説した。人員整理をめぐるリスク管理全般についての主な質疑応答とともに紹介する。

<同じ事実について複数の証拠収集を>

 李弁護士によると、「労働契約法実施条例」第193項では、「労働者が使用者の規則制度に重大に違反した場合、使用者は労働契約を解除することができる」としている。裁判では、a.就業規則に明確な規定があり、その内容を従業員に告知していたか、b.業務指示の内容が合法、合理的か、業務指示を通知した証拠はあるか、業務指示を従業員が拒否した事実があるか、が審理のポイントになる。業務指示に従業員が全て従う必要があるわけではなく、例えば、残業を指示したが従業員が従わなかったとしても、残業をするかしないかは従業員が決められるため、この場合は業務指示が合理的とは見なされない。

 

 証拠収集については、最高人民法院(最高裁)の司法解釈によると、会社の従業員の証言および争議点に関するビデオ・録音、書類のコピーなどは単独では事実を判断する根拠とならないため、同じ事実について複数の証拠を収集することが望ましい。

 

<人員整理はまず「不良社員」から>

 人員整理の4つのケースを紹介してきたが、短期間に複数の従業員の労働契約を解除することは、現在の司法判断ではリスクが高く、協議解除でさえも予想する効果を得られるとは限らない。よって、まずは長期病欠者や、業務不適任の従業員、業務指示に従わない従業員など、個別の問題を抱える人物から整理し、社内の雰囲気を改善するとともに、早期退職制度などを取り入れながら、人員整理に向けた環境をつくるとよい。また、人員整理に伴うリスクを軽減させるには、適切な労働契約の解除方式を選択し、労働契約解除の法定条件と手順に従い、慎重に対応する。さらに、労務トラブルの対応マニュアルを制定し、担当者、管理者の証拠保全意識を高め、部門間におけるコミュニケーションを強化し、人員整理に伴うトラブルの対応に事前に備えておく。

 

<人員整理に向けた環境づくりが大切>

 参加者からの主な質疑と李弁護士の回答の概要は以下のとおり。

 

問:月に20人以上の従業員と労働契約を解除する場合、労働行政部門での退職手続きを1ヵ月前に報告する必要があると説明があったが、20人未満の場合、事前報告は不要か。

 

答:規定では月20人未満の退職手続きは報告不要だが、実務において、地方政府によっては失業率などを考慮して20人未満の場合も制限を設ける場合が見受けられる。

 

問:もうすぐ定年退職となる従業員を自宅待機させることは可能か。その期間の給与はどのように支払うか。また、自宅待機させる従業員数について規定があるか。

 

答:協議合意により自宅待機させることは可能。その期間の給与は社内の規定または従業員との協議に基づき支払うこととなる。自宅待機させる従業員数について特に制限はない。

 

問:労災従業員の休暇期間満了後、職場復帰を要求することができるか。

 

答:要求することは可能だが、従業員が復帰できないと主張することがある。その場合、関連部門に休暇期間の延長を申請させ、関連部門の鑑定結果に基づき、延長するか否かを確定することが可能となる。

 

問:派遣社員を継続して使用しない場合、経済補償金を支払う必要があるか。

 

答:派遣会社と締結した派遣契約書の約定および継続して使用しない原因(個人の自己都合か、会社の経営上の理由か、など)に基づき判断する必要がある。また、経済補償金を支払う必要がある場合、実務上は一般的に派遣先が負担する。

 

問:一部従業員に対して人員整理を行う場合、対象となった従業員から、なぜ自分が人員整理の対象となるのか問われることが考えられる。その場合、どうしたらよいか。

 

答:できる限り社内で人員整理に向けた環境づくりをしておくことが大切となる。実務面の対応方法としては、a.会社のニーズ(生産量など)に基づき部署ごとに実施する、b.不要になる間接部署から実施する、c.説明を工夫する、ことが考えられる。説明の工夫の一例として、今後も全従業員を対象に人員整理の面談が行われる可能性を示唆し、1回目の協議解除に応じる場合のメリットがあることを伝えることが考えられる。

 

(日向裕弥)

(中国)

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