英国のEU離脱決定、事業展開への影響はまだ限定的-2016年度欧州進出日系企業実態調査(2)-

(欧州)

欧州ロシアCIS課

2016年12月09日

 ジェトロが実施した「2016年度欧州進出日系企業実態調査」では、英国のEU離脱の決定を受け、現在または今後対応を検討する可能性のあることとして、在英日系企業では「規制、法制度の変更」「為替リスク」への対応が上位2項目に挙がった。他方、英国を除く在EU日系製造業では「分からない」が最多となった。交渉中の日EU経済連携協定(EPA)については「メリット大」との回答が37.8%(前年比2.9ポイント増)に上り、欧州での価格競争力向上への期待がうかがわれる。連載の後編。

<在英日系企業の「地域統括機能」拡大意欲が減退>

 調査結果によると、今後12年の事業展開の方向性として、「拡大」が50.6%を占め、「現状維持」45.4%、「縮小」3.3%、「第三国(地域)へ移転・撤退」0.7%だった(図1参照)。特に中・東欧の非製造業では「拡大」の割合が71.4%と、前年調査の56.3%から15.1ポイント増えた。国別にみると、ポーランドで「拡大」の割合が80.6%と最も高く、ギリシャが14.3%で最も低かった。英国は36.5%でギリシャに次いで低かった。

図1 今後1~2年の事業展開の方向性の推移(欧州および英国、全業種)

 今後12年の事業展開の方向性で「拡大」の割合が特に高かったのは、医療機器と食品・農水産加工でともに75.0%だった。医療機器は前年調査でも76.9%が「拡大」と回答した。中・東欧では、建設・プラント、運輸・倉庫、販売会社で「拡大」が80%を超えた。

 

 英国のEU離脱を決めた国民投票は、今後12年の事業展開の方向性にはまだ大きな影響を与えていないようだ。ただし、拡大する機能として「地域統括機能」を選択した企業の割合が高い国をみると、英国は6位(8.7%)にとどまり、前年調査の2位(18.6%)から大きく後退した。日系企業の地域統括戦略には影響が出始めており、「本社組織の移転検討」といった回答もみられる。

 

 将来の有望な販売先は、前年首位のトルコが2位に後退し、ドイツが首位になった。経済制裁が解除されたイランが前年の19位から10位に急浮上した。前年8位だった英国は10位圏外に後退した。

 

<「規制、法制度の変更」「為替リスク」への対応を重視>

 英国のEU離脱決定を受け、現在または今後対応を検討する可能性のある内容を聞いたところ、在英日系企業のうち製造業では「為替リスクへの対応」(64.0%)、非製造業では「規制、法制度の変更への対応」(53.9%)が最も多かった(図2参照)。これらの項目に加え、製造業では「サプライチェーンの見直し」(36.0%)、「物流ルートの見直し」(23.7%)、「製品・サービス価格の見直し」(22.8%)が20%を超えた。在英日系企業からは、「EU域内への移転を検討」「統括拠点の立地国の再検討」といった回答もあった。

図2 英国のEU離脱を受け、現在または今後、対応を検討していく可能性のある内容〔英国のみ(n=279)〕

 在英日系企業を除く在EU日系企業では、製造業では「分からない」(41.6%)、非製造業では「為替リスクへの対応」(36.4%)がそれぞれ最多だった(図3参照)。非製造業では「規制、法制度の変更への対応」も31.8%と高かったが、在英日系企業の回答比率とは差異がみられる。

 

 在英日系製造業では、10.5%の企業が「製造体制の見直し(縮小)」と回答した。「販売体制の見直し(強化)」の割合は、「在英日系企業」(7.9%)の方が「在英を除く在EU日系企業」(6.3%)より高かった。

図3 英国のEU離脱を受け、現在または今後、対応を検討していく可能性のある内容〔英国を除くEU(n=616)〕

<日EUEPA締結で「価格競争力の向上」を期待>

 EUが交渉を進める経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)の影響については、37.8%(前年比2.9ポイント上昇)が「メリット大」と回答した日EU EPAへの期待が、他のEUEPAFTAに比べて高い。特に中・東欧では「メリット大」が46.3%あり、製造業に絞ると54.8%に達した。期待する理由として「価格競争力の向上」を挙げる回答が多かった。業種別では、輸送用機器部品(自動車・二輪車)(52.9%)、一般機器(金型・機械工具を含む)(51.5%)、輸送用機器(自動車・二輪車)(50.0%)で「メリット大」と回答した企業が多かった。

 

 在EU日系製造業の部品・原材料の調達先(国・地域別)については、「日本」からが29.0%に達しており、日EUEPAの締結により関税が削減・撤廃されれば、そのメリットは大きい。非製造業を含めた全業種における「日本」からの調達比率は32.2%でさらに高く、同EPAへの期待の高さがうかがわれる。

 

(深谷薫)

(欧州)

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