コンプライアンス構築には社内規則と内部通報制度が重要-北京でコンプライアンスセミナー開催(1)-

(中国)

北京発

2016年10月03日

 ジェトロは9月9日、中国日本商会と共催で「中国現地法人におけるコンプライアンス」と題したセミナーを北京で開催した。KLO投資コンサルティング(上海)北京支店の呉強総経理と鈴木龍司顧問が、中国の法令・商習慣に則したコンプライアンス体制構築について解説した。2回に分けて報告する。

<外資系企業に高額罰金の事例が増加>

 鈴木顧問は、第1部でコンプライアンス体制の在り方について講演した。主な内容は以下のとおり。

 

 中国では、法令違反を理由に外資系企業が高額な罰金を科される事例が増えてきた。主に独占禁止法違反を事由とした処罰事例が多い。20152月にはライセンスの提供に当たって不公平な高価格で商品を販売し、抱き合わせ販売を行い、不合理な取引条件を付加したことを理由に外国企業が608,800万元(約9132,000万円、1元=約15円)の罰金を科された事例、20149月には「商業賄賂」(民間企業間における贈収賄)を理由に外国企業の現地法人が30億元の罰金を科されるとともに、経営陣が懲役判決を受けた事例があった。また駐在員事務所でも、フランチャイズフィーを本社に代わって受領したことから、業務活動範囲の逸脱を理由に3万元の罰金を科された事例が20147月に発生している。

 

 コンプライアンス体制の在り方を3段階(初期段階、制度構築段階、制度運用段階)に分けると、まず初期段階では、政策、法令などの最新情報の収集がポイントとなる。政策、法令情報は国務院法制弁公室や各行政部門がウェブサイトで新規法令、政策、草案とその解釈を紹介している。処罰事例は、国家発展改革委員会の価格監督検査および独占禁止局や各行政部門がウェブサイトで紹介している。

 

<従業員も参加して社内規則を作成>

 制度構築段階では、経営陣やコンプライアンス部門は、作成した社内規則を通して従業員に会社としてのコンプライアンスの在り方を伝える。また、内部通報制度を導入することで、従業員が社内で起きている不正行為を経営陣やコンプライアンス部門に伝えられる制度を構築する。

 

 会社は思い描くコンプライアンス体制を、社内規則を通じて従業員に伝えることになるが、社内規則の中でも特にコンプライアンスマニュアルが重要だ。コンプライアンスマニュアルは上から押し付けられた規則と受け止められると理解が進まないので、従業員にも討論させ、従業員が各自の業務を行う際の行動規範となるように可能な限り具体的に記載し、不正行為として禁止される行動パターンも提示するとよい。接待を例にすると、1回の接待費の金額に応じた精算の審査・許可者を明示する、1人当たりの接待費上限額を1類都市(北京市、上海市、広州市、深セン市)と2類都市(1類都市以外の省都、直轄市)に分けて規定する、特定の顧客に対する接待の年間の上限回数を定める、といったことが挙げられる。

 

 内部通報制度を導入するメリットは、社内の不正に対する早期解決、行政・司法機関による重罰の回避、会社のレピュテーション(評判)低下の回避、社内のコンプライアンス意識の向上がある。導入する際には、社内窓口のみでは内部通報制度の担当者、管理者による不正行為が隠蔽(いんぺい)される可能性や通報者の利益保護の難しさがあるため、適切な通報窓口を社外に設置すること、原則は現地法人の社内もしくは社外窓口が管理し、通報内容に応じて本社で把握・管理できるようにすること、がポイントとなる。

 

<物的証拠確保には入念な準備が必要>

 制度運用段階では、制度構築段階で作成した社内規則や導入した内部通報制度の周知と、実施・運営がポイントになる。社内規則、内部通報制度が意図どおりに機能しているか、また一定期間経過後も機能しているかを確認するため、定期的に内部監査を行うことが望まれる。

 

 内部監査の方法は、書類調査とヒアリング調査を組み合わせた現地調査がある。書類調査は全ての書類を調査すると膨大になるので、金額が大きい、名目が普段の取引と異なる、などの基準を設けた絞り込みが重要だ。ヒアリング調査は、1回目は状況把握、2回目は疑問点の確認と、2回行えるように日程を調整する。監査の終了後は監査報告書を作成し、監査報告会を開催し、コンプライアンス違反事実の解消に向けた措置が取られているかの事後確認を行う。

 

 内部監査中に違法性が疑われる行為を発見したら、まず調査の必要性とその規模を検討する。物的証拠収集では、例えば、会社支給のパソコンに賄賂に関するメールの受送信履歴がないか確認する際には、調査対象者に怪しまれないよう、ウイルス対策で全従業員のパソコンを確認するといった名目で外部の人に確認してもらうというように、調査名目や方法、日時、調査人員などの入念な準備が不可欠だ。事情聴取は、先に周辺の利害関係者や会社などから調査し容疑者への事情聴取は最後にする、報復措置を受けないか神経質になっている通報者に対しては特に慎重なヒアリングを行う、ヒアリング手続きの公正を確保するため内容をメモに残す、ことがポイントとなる。

 

(日向裕弥)

(中国)

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