就業規則を制定する際の留意点を説明-天津で労務問題セミナー開催(2)-

(中国)

北京発

2016年10月03日

 ジェトロが天津日本人会と共催した労務セミナー報告の後編。天達共和法律事務所の章啓龍パートナー弁護士が、休暇管理の仕方や就業規則を制定する際の注意点などについても説明した。質疑応答とともに紹介する。

<病気休暇は就業規則に詳しく記載>

 章パートナー弁護士の説明は以下のとおり。

 

 中国の法定有給休暇は、勤務年数110年未満が5日、1020年未満が10日、20年以上が15日となっている。この勤務年数は、以前の職場の勤務年数を含む。以前の職場の勤務年数は、社会保険納付履歴や職場に確認して判断するが、記録の不備で確認し切れないこともあるため、自社で確認できる年数を勤務年数とすることを就業規則で明確にしておくとよい。法定休暇の繰り越しは従業員から要望があれば認めるが、年末に残った有休は企業側に日給の300%の基準で買い取り義務がある。他方、有休の取得は会社側に手配権があることから、10月ごろに人事部から各部署の管理者に各従業員の有休残日数を伝え、年内に消化するよう指導することが考えられる。

 

 病気休暇期間中の待遇は法定基準以上であれば合法だが、明文化しておくことが重要だ。天津市の場合、最低賃金〔月額1,950元(約29,250円、1元=約15円)〕の8割が法定基準だ。病気休暇の付与を認める前提条件、一定期間を超えた病気休暇に対して診断書のダブルチェックと指定医療機関での再診手配、診断書に虚偽があった場合の罰則を就業規則に詳細に記載するとよい。

 

<就業規則は従業員の義務を定めるのが基本>

 就業規則制定に当たり、ひな型をそのまま使用するのは危険だ。製造業、貿易会社、女性従業員が多い会社、歩合制実施会社など、各社の特徴に合った内容とするべきだ。また、就業規則は会社が従業員の人事管理を行うための「根拠」と「ルール」であり、労働契約とは異なる。企業と従業員が平等という関係性の下に作るものではなく、従業員の義務を定めるのが基本的な考え方だ。

 

 法令で使用者側に認められている権利を最大限に生かせるよう、労働争議の発生をどのように避けるか、いざ発生した場合に企業がどのように対処するか、果たして立証できるか、を念頭に就業規則の内容を考えるとよいだろう。法律・法令の明文規定を書き込んだ就業規則がよくみられるが、従業員の権利意識を不要に引き上げるので逆効果になる。なお、就業規則が全てではなく、健全な人事管理をしていくには、一連の内部統制制度の確立が必須。法令も会社の状況も人事管理者の経験も変わることから、就業規則は更新が重要だ。

 

<残業代支払いか振替休暇取得かは企業側が指定可>

 参加者からの主な質疑と章パートナー弁護士の回答概要は以下のとおり。

 

問:従業員にインセンティブを設定すると同時に、目標不達成の場合にペナルティーとして罰金を科すことを検討している。このような罰金について、法的にどのようなリスクがあるか。

 

答:ペナルティーとして罰金を科すのは、労働契約で約定された賃金を支払わないという意味でリスクがある。労働契約を締結する際には、目標未達成時の賃金削減が賃金支払い不足と判断されるリスクを回避するため、基本給の部分のみを労働契約に掲載する対応が考えられる。こうした場合、労働契約書の書面上は、基本給の部分しか記載されないため、業績給の部分に対する調整(増額および減額)が生じても、違法と判断されるリスクを抑える効果がある。

 

問:従業員が残業代欲しさに、振替休暇取得に難色を示す場合、どのように対処すればよいか。

 

答:残業をした従業員に、残業代を与えるかそれとも振替休暇を与えるかは、従業員の意思に関係なく、企業側の決定に基づいて指定することが可能。仮に従業員が残業代を希望する場合であっても、企業としては粛々と振替休暇を指定すればよい。

 

問:工会が日本の労働組合と異なり、企業と労働者の間にある、中立的な立場であることを理解した。当社では親族の病気見舞いを理由とした休暇を認めると同時に、見舞い金も会社が負担しているが、見舞い金を工会の負担とさせることは可能か。

 

答:工会は会社とは別個の法人だ。このような独立した法人に、企業は工会費を納めているので、この工会費から従業員の親族の見舞い代を負担してもらうということは、十分あり得る。

 

問:中国各地で、地方政府から企業に対して集団契約(注)の締結を求めるケースが増えていると聞くが、天津市ではどうか。

 

答:各地で集団契約の締結が推奨されているという点は、指摘のとおり。現在のところ大企業が中心となっている。天津市では企業規模がさほど大きくない企業が多いことも影響しているのか、地方政府から集団契約を求められるケースは目立っていない。

 

(注)集団契約とは、使用者と当該使用者の従業員とが法律、法規および規則の規定に基づき、労働報酬、労働時間、休息休暇、労働安全衛生、職業養成訓練および保険福利などの事項について、団体交渉を通じて締結する書面合意を指し、日本の労働協約に類似するもの。また、単一企業における集団契約のほか、ある業界やある地域の工会が当該業界もしくは地域における代表的な企業の代表と締結した業界性集団契約や地域性集団契約もある。

 

(日向裕弥)

(中国)

ビジネス短信 9330455578acbbee