投資の増大と多様化に期待-東京でチリ・ビジネスセミナー開催-

(チリ)

米州課

2016年09月06日

 ジェトロは、チリ対内投資促進庁(InvestChile)、三菱東京UFJ銀行との共催で8月29日、東京で「チリ・ビジネスセミナー」を開催した。チリは政治・経済・社会ともに安定、自由貿易を推進しており、ビジネス環境が整いつつあるとして、中南米における投資先としてチリの優位性が強調されるとともに、今後の投資対象として期待される分野が紹介された。

<産業構造の多様化が課題>

 2015年のチリの実質GDP成長率は2.1%と前年比0.2ポイントの上昇となったが、2016年の成長率予想は1.7%と鈍化するとみられている。主要産業である鉱業が、銅価格の下落により不振であるためだ。こうした中、政府は資源中心の産業構造の多様化を喫緊の課題としている。外資誘致策も同様であり、チリのさまざまな投資機会に関する情報を海外に提供することで多様なセクターへの投資を呼び込もうとしている。セミナーでは、ルイス・フェリペ・セスペデス経済・開発・観光相とともに、20161月に組織改変により誕生した対内投資促進庁のカルロス・アルバレス長官が出席した。

 

 開会のあいさつをしたジェトロの赤星康副理事長は「チリは一貫して自由貿易を推進している。また、20161月には日本・チリ租税条約に署名済みだ。安定した政治・社会情勢には定評があり、日本企業が持続的にビジネスを展開できる環境が整いつつある」と投資環境を評価した。

 

 続いてセスペデス経済・開発・観光相が、「チリの生産性向上への挑戦」と題した基調講演を行った。チリは開放的な経済政策やインフレ抑制などの成功により、25年にわたり着実に経済を成長させてきたが、先進国に比べ生産性が低いことを課題として挙げた。さらなる経済成長には生産性の向上が不可欠であり、そのためにはイノベーションに基づく産業の多様化・高度化が重要、との考えを示した。また同相は、鉱業以外で今後成長が期待できる分野として、太陽光発電、機能性食品などを紹介し、官民の協働によりこの分野を発展させていきたいと述べた。生産性向上のため、外資企業のノウハウ導入の重要性についても言及し、「ビジネス環境を整備することでさらに外資を呼び込み、日本とチリの経済協力も強化していきたい」と述べた。

 

<投資対象に再生可能エネルギー事業も>

 対内投資促進庁のアルバレス長官は「外国直接投資に向けた新しい挑戦と機会」と題した講演の中で、これから期待される投資対象分野として、鉱業に関連した水供給事業やエンジニアリング、エネルギー分野では太陽光発電、風力発電など再生可能エネルギーを挙げた。政府は、2050年までにエネルギー源の70%を再生エネルギーで賄うことを目標にしている。2017年上半期に太陽光発電による設備容量が2,169メガワット(MW)に達する見込みであることを紹介し、日本企業の参入増加に期待感を示した。機能性食品や加工食品など食品産業についても言及し、容器包装など周辺産業にも日本企業が参入する余地があるのではないか、とコメントした。

 

<チリをベースに人材ビジネスを中南米へ展開>

 チリ進出の日系企業からは、現地在住者からみたビジネス・生活環境や経済についてプレゼンテーションが行われた。三菱東京UFJ銀行の嘉屋本敦サンチャゴ支店長は、チリの安全かつ快適な生活環境を紹介しつつ、低インフレと安定した経済成長に加え、格付け会社スタンダード&プアーズ(SP)の評価では日本を上回っている点を紹介。その背景として、短期債務の割合が小さいことなどについて言及した。ジェトロ・サンティアゴ事務所の中山泰弘所長は、現地日系企業を対象とした日本・チリ経済連携協定(日智EPA)や投資環境に関して実施したアンケート調査(注)の内容を中心に発表した。回答企業のうち67%の企業が日智EPAを利用しているという利用率の高さとともに、同協定の課題として、関税還付に時間がかかるという現地進出企業の声を紹介した。さらに、進出日系企業の望む規制緩和の例として、沿岸航行の外資開放要望や環境対策者への販売インセンティブ導入要望などを挙げた。

 

 セミナーではまた、鉱業以外の企業の投資として、アウトソーシングの事例が紹介された。アウトソーシング(本社:東京都千代田区)の吉田和弘戦略事業統括本部担当部長は、20152月から南米進出を検討、同年11月にはチリ現地資本の人材サービス会社グルーポ・エクスプロの株式51%取得し子会社化して、同分野においては初の日系企業進出となるまでの経緯を紹介した。進出の背景としては、チリの健全性・経済的安定はもちろんのこと、1人当たりのGDPが高いことで高付加価値人材が求められるチリの特性が、人材紹介・派遣業務に向いていることを強調した。また、海外展開するチリの大手小売りチェーンを顧客としていることで、その海外展開に合わせて他の中南米諸国への展開も可能だ、とチリ投資のメリットに言及した。

 

(注)日智EPAにおける運用実態把握アンケート調査。調査期間は20167827日。アンケート送付先は64社で回答企業は26社(回収率40.6%)。

 

(澤畠範子)

(チリ)

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