TICAD VIのサイドイベント、73本の覚書に署名-日本やケニアの首脳迎え「日本・アフリカ ビジネスカンファレンス」-

(ケニア、日本、アフリカ)

中東アフリカ課

2016年09月14日

 アフリカでは初の開催となる第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)が8月27~28日に、ケニアの首都ナイロビで開催された。ジェトロがTICAD VIの公式サイドイベントの1つとして現地で開催した「日本・アフリカ ビジネスカンファレンス」には日本とケニアなどアフリカ各国の首脳をはじめとした政財界の有力者が多数参加した。日本とアフリカの企業・団体間で計73本の了解覚書(MOU)が署名された。

<安倍首相は「官民経済フォーラム」設立を表明>

 ジェトロとケニア投資庁(KenInvest)は「日本・アフリカ ビジネスカンファレンス」を826日と28日の2日間、TICAD VI会場のケニヤッタ国際会議場(KICC)内のアンフィシアターで開催した(日本経済新聞社、日経BPが共催)。日本企業や政府関係者、アフリカ各国の政財界関係者ら、幅広い層から2日間で約1,400人が参加した。

 

 安倍晋三首相は828日の来賓あいさつで、「アフリカのさらなる経済発展に向けて官民で協力したい。民間セクターの果たす役割は大きく、日本企業による対アフリカ投資のため『日アフリカ官民経済フォーラム』を設立することとした」と述べた。

 

 ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領も828日に来賓として登壇。「アフリカと日本が協力しながら、経済発展や貿易の促進を進めたい。アフリカの産業化、多様化、雇用の創出が重要であり、長期的なパートナーシップでアフリカがグローバルマーケットに参入できるよう日本と協力したい」と語った。

 

 826日には開会に当たり、松村祥史経済産業副大臣、ケニアのウィリアム・ルト副大統領、アダン・モハメド産業・貿易・協同組合省長官が来賓として参加した。「民間部門の重要性を政府も認識し、アフリカの産業化や製造業の振興が重要と考えている。アフリカの持続的な開発に日本はパートナーとして重要な役割を持つ。日本企業には今後もさらなる投資を期待している」(ルト副大統領)、「近年、日本企業のアフリカ進出は増加傾向にあり、この流れを加速して信頼できるパートナーとして関係を強化したい。今回のTICADは数千人が集まる過去最大級の規模で、民間セクターが参加するのも画期的な点だ。民間の力が重要であり、政府も全力でサポートする」(松村副大臣)などと述べた。

写真1 安倍首相、ケニヤッタ大統領をはじめ各国首脳が参加(ジェトロ撮影)

<日本のクオリティーをPR、アフリカのビジネス環境も紹介>

 2日間にわたったプログラムは、アフリカ開発銀行(AfDB)のアキンウミ・アデシナ総裁の基調講演で幕を開けた。同総裁は「AfDBは民間セクターが成長の牽引力だと期待しており、電力や鉄道などのインフラ整備、中小企業支援など引き続きサポートしていく。日本には援助のみならず、貿易や投資のパートナーシップを期待している」と語った。

 

 基調講演に続き、日本からアフリカへの貿易・投資の拡大をテーマに7つのパートに分けて講演が行われ、日本の約30企業・団体、アフリカの約20企業・団体が登壇した。

 

 「製造業・サービス」のパートでは、日本の3社が登壇し、ガーナでのシアバタービジネス、日本と海外との観光交流、高品質な衣料品製造についてプレゼンテーションが行われた。モデレーターからは、アフリカには製造業が必要で、日本企業から付加価値化などを学びたい、とのコメントがあった。

 

 「情報通信・IT」のパートでは、日本の3社が登壇し、地上デジタルテレビ放送システム、ソフトウエアのオフショア開発、オンライン徴税システムの紹介があった。モデレーターからは、2013年にアフリカ7ヵ国により「スマートアフリカ」が提唱されており、ITを社会や経済の発展につなげようというプロジェクトがあることが紹介された。

 

 「医療・感染症対策」のパートでは、日本の4社が登壇し、医療機器や感染症対策、検査器具の普及などが紹介された。この中で武田薬品工業は、ケニアに駐在員事務所を開設し、26日に記念式典を開催したと発表した。アフリカ側からは、東アフリカヘルスケア連盟のアミット・タッカー氏が登壇し、同連盟の活動や広域的なネットワークを紹介した。

 

 そのほか、日本企業・団体によるプレゼンテーションでは、農業、航空、鉄道、エネルギー、環境、美容、金融、保険、プラント建設、設計・調達・建設(EPC)ビジネス、塗料、発電、公衆衛生、資源開発の各分野について、アフリカでの取り組みが紹介された。

 

 一方、アフリカからも日本に対し、ビジネスの深化に向けたさまざまなメッセージが発せられた。「アフリカのビジネス環境:絶望からアフリカライジングへ」のパートでは、アフリカのビジネス関係者6人が登壇した。アフリカは人口の多くが若年層で、教育水準も向上しており、今後も市場拡大が見込まれる。アフリカがイノベーションハブとなりつつある。一方で、製造業は発展の余地が大きく、インフラの未整備などビジネスの障壁があり、チャンスだけではなく課題も多い。アフリカは成長途上の市場であり、根気が必要な地域だ。日本とは長期的な協力を通してウィンウィンな関係を築きたい、との議論が交わされた。

 

 「アフリカ経済成長に向けた地域経済共同体(RECs)の役割」のパートでは、アフリカの地域経済共同体から9人が登壇した。地域統合は経済成長を確かなものにする点で重要な動きであり、さらなる貿易活発化のためにも国境を越えた道路や鉄道などインフラの整備、非関税障壁の撤廃などが重要だ。例えば、東アフリカ共同体では日本の支援により国境検査所の整備を進めるなど、日本は港湾や発電などで既に支援を始めている。各共同体とも交通回廊など広域的なインフラを重視しており、複数の共同体を統合して1つの自由貿易圏をつくろうという動きもある。日本企業にとっても関心が高い動きだろう、といった意見が出た。

 

 また、アフリカで活躍する地場企業4社が登壇。ワディ・デグラ(Wadi Degla)は不動産開発、飲料製造、スポーツ事業などを説明。エムロック・ティー・ファクトリー(Emrok Tea Factory)は紅茶や茶葉生産を紹介した。オラスコム(Orascom)は建設、セメント製造などについて説明した。オラム(Olam)はザンビアを中心としたアフリカ諸国でのコーヒーやカシューナッツなどの食品ビジネスを紹介した。

写真2 地域経済共同体について議論するパネリストたち(ジェトロ撮影)

MOU締結やジャパンデスク設置により日本企業を後押し>

 828日には、ルワンダのカガメ大統領、マダガスカルのラジャオナリマンピアニナ大統領も来場して、安倍首相、ケニヤッタ大統領と共に、カンファレンス内で開催された日本とアフリカの企業・団体間のMOU署名式に立ち会った。合わせて73本のMOUが署名され、日本とアフリカの官民が一体となってアフリカビジネスに取り組むことが確認された。

 

 ジェトロはAfDBKenInvestとそれぞれMOUに署名した。今後、両機関がアフリカ各国のインフラ分野における貿易・投資の振興を通じたビジネス促進を行うため、相互協力することに合意した。TICAD VIを受けて、具体的なビジネスを進める上で大きな役割を果たすことが期待される。

 

 カンファレンス終了後には、ジェトロ主催でネットワーキングランチを開催。この中でジェトロの石毛博行理事長は、アフリカ投資誘致機関フォーラム(AIPF)を紹介した。ジェトロは2014年からAIPFを運営しており、今回、フォーラムを構成する9ヵ国(ケニア、コートジボワール、エチオピア、エジプト、モザンビーク、南アフリカ共和国、ナイジェリア、タンザニア、モロッコ)の投資誘致機関に「ジャパンデスク」を設置したと発表した。また、ジェトロは国内外で「アフリカデスク」を設置し、日本とアフリカの双方でアフリカへの日本企業の進出を支援する体制が強化された。さらに、ジェトロのカイロ、ラゴス事務所と両国の投資誘致機関の間でそれぞれMOUが締結され、今後の一層の関係緊密化を目指すことも発表された。

 

(小松崎宏之)

(ケニア、日本、アフリカ)

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