一定条件の下、小売り・流通・輸入分野で外資100%の投資に道-米企業3社が認可を取得済み-

(サウジアラビア)

リヤド発

2016年08月19日

 政府は6月、一定の条件下で、小売り・流通・輸入分野の外資100%による投資を認可すると閣議決定した。既に米企業のダウ・ケミカル、3M、ファイザーがサウジアラビア総合投資院(SAGIA)から許可を受けており、これらの企業は国内の3分野で事業活動が認められることになる。今回の規制緩和の動きは、2015年9月のサルマン国王訪米時の発言で注目を集め、4月に発表された石油依存型経済からの脱却を目指す「サウジアラビア・ビジョン2030」により加速した。

<従来の規則を残しつつ条件満たす企業を特別扱い>

 従来、小売り・流通・輸入分野のサウジアラビア市場へ参入する企業は、現地資本(もしくはサウジ国籍を持つ個人)と合弁で有限会社(LLC)を設立しなくてはならず、外資による出資額は2,000万リヤル(約54,000万円、1リヤル=約27円)以上、出資比率は上限が75%とされてきた。

 

 今回の規制緩和は、従来の規制を残しつつ、次に挙げるような条件を満たすことのできる外資に対しては特別に単独での直接投資の道を開いたという点で、注意が必要だ(詳細は添付資料参照)。

 

3ヵ国以上の地域に参入していること

○設立する法人の資本金が3,000万リヤル以上であること

○次のいずれかの条件を満たすこと

1)当初5年間で3億リヤル以上の投資を行うこと(資本金を含む)

2)当初5年間で2億リヤル以上の投資を行うこと、また同期間で以下の項目を1つ以上満たすこと

a.現地製造:国内で販売する製品の30%以上を現地製造すること

b.研究開発:国内における売上高の5%以上を国内における研究開発に投入すること

c.流通・アフターセールス拠点:国内に流通ならびにアフターサービスを提供する拠点を開設すること

○労働・社会発展省が規定するサウジ人の雇用比率を順守し、管理職への登用に向けた能力開発プログラムを雇用から5年間実施し、その後も継続すること

○サウジ人従業員の30%に毎年研修を実施すること

 

 ジェトロがヒアリングしたSAGIAの担当者によると、「直接投資の認可を受けた外資企業が、結果として上記条件を満たすことができなかった場合(投資額未達など)のペナルティーについては未定で、現時点では毎年行うことになる企業活動のレビューにおいて協議を行うことになる」とのことだった。

 

<「大企業優先」の流れをくむ規制緩和>

 規制緩和の動きではあるものの、こうした条件を満たすには外国企業も一定以上の事業規模を要求され、日系企業関係者の反応は厳しい。20159月のサルマン国王訪米時に、検討中の本件について報道があった際、SAGIAの担当者は「対象企業はアップル、ダウ・ケミカル、ファイザーなどの大企業を想定している」と述べていた。

 

 規制緩和はこの「大企業優先」の流れをくむものだが、SAGIAからは日系企業進出への期待も示されたことから、サウジへの貢献度が高いと思われる日系企業については個別協議に応じる可能性もありそうだ。

 

 原油価格の低迷により、石油依存体質脱却のための産業多角化がより現実味を帯びた課題となる中、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子は「ビジョン2030」を4月に発表した(2016年5月11日記事参照)。従来の「産業多角化」政策は、まず現地製造を求めるケースが多かったが、同ビジョンはGDPに占める民間部門や非石油産業のシェア拡大といった、より幅広い枠組みでの産業育成に主眼を置いている。

 

 SAGIAは今回の規制緩和を「ビジョン2030」の達成に向けた最初のステップと位置付けており、外資誘致に取り組む政府の前向きな姿勢がうかがえる。

 

庄秀輝、佐藤由爾/中東協力センター

(サウジアラビア)

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