法律上問題なくても実務リスクが高いトラブルも-北京と天津で労務問題セミナー開催-

(中国)

北京発

2016年08月04日

 ジェトロは、7月7日に天津市で天津日本人会と共催、続いて15日には北京市で中国日本商会との共催により、それぞれ労務問題に関するセミナーを開催した。北京市大地法律事務所の熊琳弁護士が、北京市で導入された外国人の就業許可取得手続きの新システムや労務問題のトラブル事例を紹介した。

<外国人就業許可手続きの新システム紹介>

 熊弁護士の主な講演内容は以下のとおり。

 

 20161月に北京市で、外国人(台湾、香港、マカオを含む)の就業許可と就業証の取得手続きが2段階制に変更された。インターネットによる手続きが必要となり、さらに窓口での手続きが予約制となった。インターネットのシステム利用に際しては、「北京一証通(通称:USBキー)」という社会保険手続きのための専用機器(USB)を、市外国人専門家局で申請し取得する必要がある。申請する企業や行政機関の担当者がシステムに習熟していないケースもあるので早めの対応が望ましい。

 

 USBキーは、インターネットを活用して経済発展をするために中国政府が進める「インターネット+」政策にのっとった手続きシステムで、インターネットによる行政管理の一元化が目的だが、課題もある。USBキーには、企業と個人の情報が詰まっているため、提出する情報を必要最小限にする、適切に管理するなど注意が必要だ。今後、活用範囲は拡大していくものとみられ、行政のIT化が進めば、企業などの情報が複数の行政機関で共有されることになる。

 

 なお、上海市でも同じく1月から、システムは異なるものの外国人の就業許可手続きが変更になっている。遼寧省大連市は制度変更のガイドラインをまとめ、天津市では今後35年以内に新制度を導入するための会議が開かれるなど、ほかの都市でも外国人就業許可にインターネットを使った手続きが導入される見込みだ。

 

<周到な対策で実務リスクを最小限に>

 中国では、賃金上昇の鈍化が進んでいることなどを背景に、労働争議が多発している。また201512月に発表された「一人っ子政策」の廃止により、結婚休暇や出産休暇などを規定した各地の「人口・計画出産条例」が改正されており、企業は就業規則の見直しを迫られている。出向者のセクハラやパワハラも新たな問題となっている。

 

 セミナーではケーススタディーとして、長期的な業務委託を中止する場合に発生した以下のトラブル事例が紹介された。

 

 オフィス機器を製造・販売するA社は、B社と5年間の業務委託契約を締結した。契約満了3ヵ月前に延長をしないことを伝えたところ、B社から、A社の業務を担当していた従業員のリストラに必要な経済補償金400万元(約6,400万円、1元=約16円)の負担と、A社の製品を製造する専用設備の残存価値600万元の賠償を求められた。また、協議延長がないことを知ったB社の従業員がストライキを起こし、経済補償金を支払った上で次の就職先を手配するようA社に要求した。これに応じない場合はA社からの受注生産をせず、さらにA社から渡された原材料など(約1,200万元相当)を差し押さえると主張し、A社が顧客へ納品できなくなる状況が発生した。

 

 この問題を法律面から分析すると、業務委託契約に契約期間満了後の自動延長の約定はなく、A社がB社の従業員や設備の補償を行う法的義務はない。しかし、実務面から分析すると、B社従業員のストライキで、A社は顧客に納品できなくなることによる経済的および信頼の損失、原材料などの差し押さえによる財産の損失が発生する。B社従業員がA社に対して労働仲裁を申し立てれば、労働者側に有利な裁定が下る可能性があり、対応コストもかかる。

 

 中国の現場では、このように法律面では問題がなくとも、実務面で被る損失が大きくなる事例が少なくない。このため、十分なリスク分析を行い、周到な対策を講じて、実務面でのリスクの発生と不利な影響を最小限に抑えることが必要だ。

 

(日向裕弥)

(中国)

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