3年に1度は就業規則を見直すことが重要-天津で労務問題セミナー開催(1)-

(中国)

北京発

2016年08月25日

 ジェトロは8月5日、天津市で天津日本人会と共催で労務問題に関するセミナーを開催した。高井・岡芹法律事務所の五十嵐充弁護士が、就業規則見直しのポイントとリストラを検討する際の労務の注意点を紹介した。2回に分けて報告する。

2016年は就業規則を見直すべき年>

 五十嵐弁護士の主な講演内容は以下のとおり。

 

 就業規則の見直しは、従業員に対して公平・適切に対応するために不可欠だ。少なくとも3年に1度は見直しをすることを勧める。目安を3年とするのは、それぐらいの間に既存の就業規則で対応できない事案が出てくること、また駐在員が交代する目安でもあるからだ。2016年は、「一人っ子政策」の廃止により、結婚休暇や出産休暇などを規定した各地の「人口・計画出産条例」が改正されており、就業規則を見直すべき年といえる。

 

 労働法第44条では時間外労働を、就業日の時間外労働、休日の業務、法定休日・祝日の業務の3つに分類し、それぞれ賃金の150%、200%、300%を下回らない割増賃金を支払うと定めている。代休を与えることで残業代を支払わなくてよいのは休日のみであり、就業日の時間外労働、法定休日・祝日の業務は、代休を与えても割増賃金分を支払う必要がある。代休取得は3つの時間外労働の種類に分けて就業規則に盛り込む必要がある。代休取得時期について法律上の規定はないが、代休を与えることができない場合は割増賃金を支払うとするのであれば、その判断の時期が遅くなれば割増賃金の支払いも遅くなる。割増賃金の遅配を避けるため、代休は残業した月もしくは翌月までに付与するよう規定することが望ましい。

 

<日本と異なる年次有給休暇制度>

 年次有給休暇は日本とは制度が異なるため、日系企業関係者に誤解が多い。年次有給休暇を付与しなければならない「連続して満12ヵ月以上勤務した場合」とは、異なる使用者の下で勤務した期間も含まれる(企業年次有給休暇実施弁法第4条)。つまり自社のみの勤続期間をカウントするわけでない点に注意が必要だ。また試用期間中であることを理由に有給休暇を付与しないと労働法違反となる可能性がある。

 

 法定年次有給休暇には、未消化日数に対し300%の賃金報酬支払い義務がある(企業年次有給休暇実施弁法第101項)。ただし、使用者が従業員に年次有給休暇を手配したものの、従業員が自己都合でこれを使用できないと書面で申し出た場合、支払い義務は100%に減額できる。また、法定年次有給休暇は当年度中に全日数を消化することが原則だ(企業年次有給休暇条例第52項)。次年度への繰り越しはあくまで例外扱いであり、繰り越しには従業員本人の同意が必要だ(企業年次有給休暇条例第52項、企業年次有給休暇実施弁法第91項)。

 

<法定有休と福利厚生有休の異なる取り扱いを明記>

 福利厚生年次有給休暇の場合、未消化日数に対する賃金・報酬の支払い義務や年度繰り越しは不要だが、就業規則に法定年次有給休暇と取り扱いを異にすることを明記しないと、未消化日数に対する買い取り義務が課せられる(企業年次有給休暇実施弁法第13条)。

 

 一人っ子政策の廃止により、男性25歳以上、女性23歳以上の結婚を対象とした「晩婚休暇」と、女性24歳以上の第1子出産を対象とした「晩育休暇」が廃止となった。今後は出産休暇の増加も見込まれることから、出産休暇規定の整備は必須だ。なお、結婚休暇、出産休暇、配偶者出産休暇の日数は各地で異なる。中国に複数の拠点がある場合、1つの就業規則を全ての拠点で使用するのではなく、拠点ごとに条例に沿った規則を作成することが必要だ。

 

(日向裕弥)

(中国)

ビジネス短信 69bb3ee37392d800