中東では最速ペースで拡大の見込み-イラン医療機器市場(2)-

(イラン、日本)

テヘラン発、ヘルスケア産業課、中東アフリカ課

2016年06月20日

 イランの医療機器市場は、中東主要国の中で最速ペースでの拡大が見込まれている。中東5位の市場規模ながら、ベトナムやインドネシアに匹敵する大きさがあり、日本企業の関心も集めている。現地の医療機器登録規制は総じて日本企業にとっては障害が少ないとみられるものの、特にアフターセールスのサービスの充実が求められる。連載の後編。

<医療機器の市場規模は約7億ドル>

 イランの医療機器市場は2014年時点で69,000万ドルで、中東ではトルコ(221,000万ドル)、サウジアラビア(197,000万ドル)、イスラエル(119,000万ドル)、アラブ首長国連邦(UAE9億ドル)に次ぐ規模だ(以下、医療機器市場規模に関するデータは全て英調査会社エスピコム「Medistat World Medical Market Forecast to 2019」に基づく)。米国に次ぎ世界2位の日本(3108,000万ドル)の2%ほどの市場だが、人口減少社会の日本よりも医療の改善ニーズが多く、医療を必要とする高齢者が増える海外に目を向ける日本企業は、イランをはじめ新興市場に早めに参入し、将来、需要が拡大した時に備えようとしている。

 

 イランの医療機器市場は20142019年に、年率17%を超える急速なペースで拡大していくと見込まれている(同期間にトルコは6.9%増、サウジアラビアは9.1%増、イスラエルは9.4%増、UAE8.9%増の見込み)。日本の医療機器メーカーが海外展開先として最も高い関心を寄せるASEANと比較すると、イランはベトナム(76,000万ドル)、インドネシア(7億ドル)に並ぶ規模だ。日本からの距離や商習慣などビジネス環境の違いはあるが、例えば、成人肥満率の高さ(米CIAによると2014年にイランは24.9%、日本は3.5%)に着目した製品を海外展開しようと考える場合、ASEANだけでなく、イランを含む中東市場も選択肢の1つとして考慮する価値はあるといえる。

 

<アフターセールスの充実が市場参入のカギに>

 医療機器の登録規制は、日本企業にとって他国に比べストレスは少なそうだ。ミッション参加企業は514日、現地進出を円滑に進めるに当たり、実務上のキーパーソンとなる保健省のビグラール医療機器審査局長との意見交換を行った。その際、ビグラール局長は「日本製品は品質が良いため、販売前に必要となる登録審査の点では心配する必要がない」としながらも、「価格競争力を有することとアフターサービスの充実がイラン市場参入のカギになる」と指摘した。

 

 日本で製造販売される医療機器を海外展開する際、新興国・途上国では近年、仮に現地の法規制に明示されていなくても、米国食品医薬品局(FDA)の登録実績やEU基準適合マーク(CEマーク)取得証明の提示を求めるケースが増えている。この背景には、医療機器の需要が増大し、各国の保健当局がより慎重に製品の安全性を確認しようと動き始めている事情がある。これら当局は、十分な審査を経ることで安全な製品を流通させたいと考えるものの、審査担当官の人材育成や能力強化が追い付いていないことから、実際には欧米での登録実績をもって審査を通すことが多い。

 

 イラン保健省はこれまで、日本に対してCEマークの取得を求めていない。20164月に着任したばかりのビグラール局長も、日本における登録実績があればCEマーク取得を求めない、とする立場を表明している。

 

 ただし、日本企業の中には審査官にCEマークの提示を求められたケースもみられ、製品や企業ごとに対応にばらつきがある点に注意が必要だ。また、イラン国内には医療機器の製造メーカーも一定程度、存在する。このため、地場企業の占有率が高い分野の製品に関しては、現地展開が一筋縄ではいかないこともあり、この点にも留意しなければならない。

写真 質問に答えるビグラール医療機器審査局長(ジェトロ撮影)
写真 ビグラール医療機器審査局長との意見交換の様子(ジェトロ撮影)

(中村志信、桜内政大、米倉大輔)

(イラン、日本)

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