最低賃金の引き上げ見送り
(ケニア)
ナイロビ発
2016年05月13日
ケニア政府は5月1日、法定最低賃金の引き上げを見送ると発表した。最低賃金の引き上げ見送りは、2009年以降で2度目。産業界からは歓迎の声が上がったが、労働組合側は反発している。
<物価上昇率を勘案して判断>
ナイロビ市内で5月1日に開催されたメーデーの集会で、ケニヤッタ大統領のスピーチを代読したカンディエ労働・東アフリカ共同体長官は、法定最低賃金の引き上げを見送ると発表した。最低賃金の引き上げ見送りは、2009年以降で2014年に続いて2度目となる(表1参照)。
政府は最近の物価上昇率を勘案して、今回の見送りを判断したとされる。国家統計局は2016年4月の消費者物価指数(CPI)上昇率を前年同月比5.27%と発表した。CPIは2015年12月に8.01%まで上昇した後、徐々に低下、3月に記録した6.45%からさらに低くなっており、特に食品・飲料(アルコール飲料を除く)は6.84%、住宅・公共料金は3.37%、輸送はマイナス0.74%と、安定して推移している。
ケニアの法定最低賃金は、税引き前月額基本給(残業代、諸手当は含まず)が基準となる。また、農業分野とその他の分野に大別され、農業分野は職種ごとに、その他の分野は職種(職工はさらに4段階に分類)・3地域分類ごとに定められている。例えばナイロビ市内では、法定最低賃金が最も低い清掃作業員などの職種では、月額1万955ケニア・シリング(約1万2,051円、Ksh、1Ksh=約1.1円)、最も高いトラック運転手などの職種は、月額2万4,720Kshとなっている(表2参照)。
<労働組合側からは不満の声>
ケニア雇用者連盟(FKE)は、政府による最低賃金引き上げの見送りを評価しつつも、引き続き労働生産性の向上やビジネスコストを勘案した賃金改定の政策枠組みを策定するよう政府に求めた。メーデーに向けて最低賃金の40%引き上げを要求していた労働組合中央団体(Cotu)は、見送りによって労働者の生活は維持できないとして反発している。また、ケニアにおいて労働生産性を測る指標がない中で、賃金の改定と労働生産性を結び付けて議論するべきではないとしている。政府に対しては、ケニアでまん延する汚職問題に関し年間6,080億Kshの損失が発生しているとした上で、汚職問題の抜本的な対策を要請した。
ケニヤッタ大統領は、2017年8月8日に予定されている次期大統領選挙に立候補することが確実視されており、最低賃金の引き上げは国民の支持を固めるのに欠かせない。物価上昇率を勘案して、最低賃金引き上げを見送った背景には、2016年は産業界の歓心を買いつつ、来年は賃金の引き上げを国民の生活向上の具体的成果として訴える材料にしたい、との思惑が透けてみえる。
(島川博行)
(ケニア)
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