主要法案の2016年上半期中の合意を目指す-EUの「租税回避対策パッケージ」(2)-

(EU)

ブリュッセル発

2016年03月04日

 欧州委員会が発表した「租税回避対策パッケージ」後編では、その目的である「課税の透明性の向上」と「公平な競争条件の確保」に向けた施策の概要を紹介する。2月12日に行われたEU理事会(閣僚理事会)でEU議長国オランダは、2016年上半期中にパッケージに含まれる主要法案の政治的合意を目指す、野心的なスケジュールを打ち出した。

<国別報告の統一的な導入を目指す>

 欧州委は、課税の透明性の向上のため行政協力201116EU)を改正し、多国籍企業に対して国別報告(CbCR)の提出を義務付け、関係する加盟国と共有することを提案した。CbCRは、多国籍企業のグループ企業の収益や利益、課税額、資本、従業員数、事業内容などが所在地別に記載されている。日本の2016年度税制改正大綱案に盛り込まれた「移転価格税制に係る文書化」と同様の施策だ。欧州委は、EU加盟国間で多国籍企業の課税情報を共有することで、税務監査の円滑化と租税回避の予防を図るとしている。

 

 欧州委は、租税回避を防ぐためには、加盟国が足並みをそろえ、統一的なやり方でCbCRを導入することが重要だと強調している。加盟国間の情報交換は、2017年から年1回行われる予定だ。なお、欧州委は第三国・地域に対してもCbCRの導入を働き掛ける意向だ。

 

<開発協力・協定交渉などで公平な課税を促す>

 欧州委はさらに、第三国・地域においてもEU企業にとって公平な競争環境を醸成するため、第三国・地域に課税のガバナンス向上と租税回避対策を促す「効果的な課税に向けた対外戦略に関する指針」を発表した。この指針は、開発協力政策などEUの他の対外政策と課税政策の協調を図っている。

 

 同指針には次の提案が盛り込まれた。

 

EUが第三国・地域に適用する課税のグッドガバナンス(良い統治)の基準を、OECDの税源浸食と利益移転(BEPS)行動計画など、国際標準に合わせて更新する。

○通商協定などへの「課税のグッドガバナンスに関する条項」の導入を促進するための、新たなアプローチ。

○途上国が安定した歳入基盤を構築するための資金援助の倍増や、税務当局への技術協力など途上国への税制面でのさらなる支援強化。

○一般予算に適用される財政ルールを定める規則966/2012のグッドガバナンス要件を改正し、EU基金を通じて国際的な透明性の向上と公正な税慣行を促進する。

EUが公開する租税回避対策に非協力的な第三・地域のリストに、公正かつ客観的な審査と当該国との対話プロセスを取り入れ、更新する。前述の課税のグッドガバナンスの基準が評価の基礎となる。欧州委は、2016年末までの掲載国・地域に対する制裁内容の決定、2019年の新リスト公開を目指す。

 

 2016212日に開催されたEU経済・財務担当相理事会では、租税回避対策パッケージについて審議した。2016年上半期のEU議長国オランダは、前編で詳述した租税回避対策指令案と行政協力指令の改正指令案の成立に向け、20166月までの政治的合意を目指すとしている。

 

 欧州委は今後、共通連結法人税課税標準(CCCTB)指令案を再提案する予定だ。同法案は域内のグループ企業の利益の共通の計算方法を提案したものだが、加盟国の根強い反対により成立しなかった(注)。また、CbCRの一般公開についても、引き続き検討するとしている。

 

(注)ジェトロ調査レポート「EUのCCCTB(共通連結法税課税標準)指令案の概要と今後の見通し」参照。

 

(村岡有)

(EU)

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