セキュリティー技術強化へ域外企業との連携も視野に-ブリュッセル・テロでEU司法・内務相理事会が緊急招集-

(EU、ベルギー)

ブリュッセル発

2016年03月25日

 ブリュッセルのテロ事件を受けて3月24日、EU司法・内務相理事会が緊急招集された。2015年11月のパリ同時多発テロ以降、ベルギーでテロのリスクは高まっていたが、EUのお膝元での発生を阻止できなかった。同理事会は今後のテロ対策として10項目について合意し、デジタル情報処理に関して(EU域外)第三国や欧州でビジネス実績のある情報技術サービス企業との協力も盛り込まれた。

10項目のテロ対策について合意>

 ブリュッセルで324日に緊急招集されたEU司法・内務相理事会の冒頭、出席者全員が犠牲者に黙とうし、今回の爆破事件を「欧州の公正な民主主義社会に対するテロ行為」と位置付け、ベルギーとブリュッセル市民に対する支援と連帯を表明した。

 

 同理事会は「(再発を繰り返す)テロ行為への対策」と「テロ支援組織の実態解明」を中心に協議し、以下の10項目について合意した。

 

1)パリとブリュッセルでの事件に関わったテロ支援組織の実態を解明する捜査を緊急に行うためにEU加盟国の連携を強化する。

220164月までに「テロ行為や重大犯罪の防止・探知・捜査・告発のための旅客予約記録(PNR)利用に関するEU指令」を採択し、施行を急ぐ。また、それによって各国当局間の旅客情報・データ交換を推進する。

3)テロ対策やシェンゲン圏外との国境での出入国管理、銃火器の取得・所持の管理、欧州犯罪履歴情報システム(ECRIS)の第三国民への適用拡大などの早期法制化、EUとトルコ、北アフリカ、中東、西バルカン諸国とのテロ対策での協力強化を行う。

4)効果的・効率的な(テロに関する)リスク評価を行うため、運輸当局と事業者との情報交換(潜在的な可能性を含む)を行う。

5)治安・ヒトの国境移動などに関する世界と欧州のデータベースの相互互換性の向上を図る。欧州委員会は328日の週に国境管理のスマート化、相互互換性に関する指針(コミュニケーション)を発表する予定。この結果、シェンゲン圏の情報管理システムの中で、欧州ワイドで自動化された指紋認証システムの導入を加速する。

6)デジタル情報(証拠など)を当局が迅速に収集できるよう、第三国および欧州で実績のあるサービス事業者との協力を行う。司法・内務相理事会は20166月の会合で具体的な対応を決定する。

7)地域レベルで(過激派の)先鋭化の兆候を早期に把握し、テロ組織の動きを封じることで、テロ行為防止のための対策を検討する。このため、欧州委はEUインターネット・フォーラム(欧州議会のインターネット関連政策形成支援を担う)や情報技術企業との連携を強化し、20166月までに、インターネット上でのテロリストのプロパガンダなどに対処する行動規範を策定する。

8)リアルタイムで多国間の情報交換を実現するプラットホームを立ち上げ、この迅速化のためにテロ対策専門家チームへの支援を強化する。

9)パリでのテロ事件以降、その有効性が明らかとなっている捜査連携のための合同チームの定期的な活用を強化する。

10)欧州警察機関(EUROPOL)傘下の欧州テロ対策センター(ECTC)に所属するEU加盟各国のテロ対策専門家による合同チームを立ち上げ、広域に展開するテロリストの脅威を捕捉する。これによってEU域外からのテロリストの脅威やテロ資金の動き、銃火器の不正取引、インターネット上のプロパガンダなどを調査する。

 

<欧州のセキュリティー分野で日系企業にも実績>

 この中で注目されるのは、(6)と(7)で「(EU域外)第三国との協力」や「欧州で実績のあるサービス事業者(情報技術企業)との連携」が明記されたことだ。世界の広範な地域で活動するテロ支援組織に対抗するには、EU域内の情報通信技術(ICT)だけでは限界があることを示唆したものと考えられる。

 

 日系企業では、日立製作所の欧州現地法人が20145月にポーランドのATM運用事業者ITCARDから1,730台の指静脈認証装置を受注し、20156月にはポーランドのザホドニWBK銀行が同社の指静脈認証ソリューションを採用するなど、同社のセキュリティー技術は高く評価されている。また、富士通も20158月に、英国防省向け基幹グローバル情報通信サービス契約を獲得、今後5年間で約55,000万ポンド(約880億円、1ポンド=約160円)のシステム受注に成功している。英国のファロン国防相は「英国はその安全を脅かす者に対抗しなければならないが、(富士通との)契約はわれわれの対抗能力強化に貢献する」と称賛した。

 

 ただし、今回のEU司法・内務相理事会の合意に明記されたEUインターネット・フォーラムには、欧州企業以外では米国のIBM、マイクロソフト、アップル、シスコシステムズ、オラクル、タイム・ワーナーなどがビジネス会員として名を連ねている。アジアからの会員登録は韓国のサムスン電子と中国の華為技術(ファーウェイ)の2社にとどまる。

 

(前田篤穂)

(EU、ベルギー)

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