グッド法の減免措置が一部の電気電子機器で終了-中南米における制度改定の動向-

(ブラジル)

サンパウロ発

2016年02月29日

 ブラジル政府は2015年12月30日、ITやソフトウエア産業へ恩典を供与する「グッド法」に関連する新たな政令を発表した。スマートフォン、タブレット端末、パソコンなど一部の電気電子機器にかかる社会統合基金・公務員厚生年金(PIS/PASEP)および社会保険融資負担金(COFINS)の減免措置を取りやめる。徴収再開で、対象となる製品には最大9.25%の税金が新たに課される。

<徴税復活で小売価格が50500レアル上昇>

 20151230日付政令13241号によると、スマートフォン、タブレット端末、パソコンや関連機器を小売業者などが消費者に販売する際、これまで免税となっていたPISPASEPおよびCOFINSの徴収が復活する。同年1231日以降、対象となるこれら製品に対して最大9.25%が課税される(表参照)。当地報道によると、小売価格は今後、50レアル(約1,400円、1レアル=約28円)から500レアル程度上昇するとみられる。加えて、部品の多くを輸入している製品の場合、通貨切り下げにより輸入資材が高騰しており、さらなる価格上昇につながることが懸念される。

 政府は、情報産業分野の発展を目的として、2005年(20051121日付政令11196号)に「ITサービス輸出奨励特別プログラム」、通称「グッド法(Lei do Bem)」を制定。ITサービスやソフトウエア輸出産業に対する奨励策として、法人所得税や法人所得に対する社会負担金の減税、研究開発拠点向けの設備購入に対する工業製品税(IPI)の減税を行い、売上高の60%以上を輸出する企業を対象に、IPIPISPASEPおよびCOFINSの免税措置を与えていた。これにより、スマートフォン、タブレット端末、パソコンなど電気電子機器の小売価格が安くなったことで販売増加につながり、さらに海賊版ソフトウエアの減少などにも一定の効果を示した。

 

 ブラジル電気電子工業協会(ABINEE)によると、2013年から2014年にかけてブラジルにおけるスマートフォン販売台数は急増しており、2013年は携帯電話販売台数のうち5割以上、2014年は7割以上がスマートフォンだった(2015年4月14日記事参照)

 

<政府は税収増を見込むも消費者離れに懸念>

 財政難に陥っているブラジル政府は、国内販売が好調な同分野において増税を行うことで、財政立て直しの一助としたい思惑がある。政府は、2015年以降さまざまな分野で相次いで増税を行っており、当地経済誌「EXAME」によると、今回の徴税復活により、2016年に約67億レアルの歳入を見込んでいる。

 

 しかし、経済が低迷した2015年は同分野も伸び悩んだ。ABINEEの集計を基にブラジル地理統計院(IBGE)が公表したデータによると、2015年の国内の電子機器生産台数は前年比21%減少し、2002年以降の最低となった。クリスマス商戦などで販売の伸びが期待された201512月も、生産台数は前年同月比28.4%と大きく減少した。

 

 今回の政令制定によりグッド法自体が消滅したわけではないが、高インフレや高金利で経済回復の兆しがみえない中、スマートフォンなどぜいたく品に対するPISPASEPCOFINSの免税措置がなくなり、さらなる価格上昇となれば、消費者離れは避けられない。ABINEEによると、201512月だけで電気電子分野において8,000人が職を失っており、2015年通年では45,500人が失業しているという。ABINEEのウンベルト・バルバト会長も、同産業の縮小を懸念している。財政立て直しと経済回復を目指すブラジル政府にとって、引き続き険しい道のりが続きそうだ。

 

(辻本希世)

(ブラジル)

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