広東の南沙自貿区、会社設立手続きが大幅に簡素化－ジェトロが広州でセミナーを共催－

＜60平方キロに総合サービスハブを建設＞

　広東省政府は4月21日、広州南沙新区、深セン前海蛇口、珠海横琴新区の3ヵ所からなる中国（広東）自由貿易試験区（広東自貿区、注1）の開業式を行った。このうち南沙新区は珠江デルタ中央部に位置し、東莞市や珠海市など珠江両岸に近く、半径75キロ内に香港や広州など5ヵ所の国際空港が立地するなど地理的な優位性がある。2017年に広州市と香港を結ぶ高速鉄道が開通すると、香港への所要時間は30分に短縮される予定だ。

　南沙新区に位置する南沙自貿区では、60平方キロに及ぶ区域に国際物流、特色ある金融業、国際商業・貿易、ハイエンド製造業（注2）などを誘致し、生産向けサービス業が中心の世界的な総合サービスハブを建設する計画だ。

　講演した南沙区投資促進サービスセンターの林善花・対外連絡部長は南沙自貿区について、「企業所得税の減免措置はないものの、会社設立の手続きが大幅に簡素化された」と述べた。簡素化の主な内容は次のとおり。

（1）広東省政府から23項目の管理権限を移譲され、会社設立時（営業許可証の取得前）の手続きに要する工商局などでの審査項目を101項目から18項目へ削減。

（2）企業設立時や登記内容の変更時に、工商局が発行する営業許可証以外に、質量監督総局、国税、地税、税関などが発給する各種証書を同時に取得することが可能に。また、申請から発給までに要する日数を従来の2週間から1日に短縮。

（3）オンラインシステムの整備により窓口1ヵ所でのワンストップ審査を実現。

　このほか南沙自貿区では、高い技能を有する人材の招致を進めており、年収が30万～500万元（約570万～9,500万円、1元＝約19円）の場合、個人に対して年収の7～18％を奨励金として支給する措置を設けている。

＜「広東協定」利用すれば参入が容易に＞

　続いて、ジェトロ中小企業海外展開現地支援プラットフォーム・コーディネーターの浜田かおり氏（深センNAC名南コンサルティング・総経理）が「日系企業向け南沙自貿区の活用方法」と題した講演を行った。

　南沙自貿区での企業設立に当たっては、上海、天津、福建の自貿区と同様、ネガティブリスト方式が適用されており、現状で15分類122項目が審査対象となっている（表参照）。経営内容がリストに含まれ、かつ非製造業の場合、企業の設立申請には3ヵ月を要することになる。経営内容がリストの対象外であれば、従来1ヵ月ほど要していた商務部門による設立認可手続きは、備案（登記）手続きで行うことが可能で、オンライン申請により3日間で完了できる。

　広東自貿区の開業に先立ち、3月から「広東における投資備案管理弁法」（以下、広東協定）が施行されている。

　南沙をはじめ各自貿区で施行される試験的な規定は、施行により支障が生じなければ、将来中国全土で適用される可能性もある。ただ、現状では香港・マカオに設立した企業を通じて広東協定を活用すれば、他の外資企業に比べ広東自貿区を含む広東省全域において、サービス業種への進出が容易となっている。

　例えば、電信会社の設立には中国企業との合弁（中国側持ち分51％以上）が原則だが、オンラインデータ処理業務であれば、香港・マカオ企業は単独資本の企業設立が可能だ（注3）。ほかにも、コールセンター業務、情報サービス（ネットショップ）、船舶補修、中等職業訓練機構（広東自貿区に限定）、医療機構などの業種で香港・マカオ企業による単独資本企業の設立が認められている。

（注1）香港に近い深セン前海蛇口では主に金融業、マカオに隣接した珠海横琴新区では教育や観光産業の誘致が進められている。いずれも面積は約28平方キロ。

（注2）人民元の対外貸し付けなどクロスボーダー人民元業務、広州市企業による香港・マカオでの人民元債券の発行、自動車の並行輸入、輸入商品のショッピングモール運営、輸出用ハイテク製品の補修など。

（注3）2015年6月19日の工業・信息化部の「オンラインデータ処理と取引処理業務（経営類電子商務）外資比率制限の開放に関する通告」により、経営類電子商務は外資比率制限がなくなった。ただし、ネットショッピングを含む情報サービス業務などは外資比率制限があるため、同部による電信業務分類と参入の開放スケジュールに留意する必要がある。

（粕谷修司）