新操短制度を導入、過剰労働者の賃金の7割以上を保証

(チェコ)

プラハ事務所

2015年08月31日

 チェコの改正雇用法が8月17日、発布された。これにより、新操業短縮制度を10月1日以降に導入し、受注の減少などが起きた場合に過剰となった労働者に対して、賃金の20%を国が、最低50%を雇用主が負担することになる。

<自然災害の影響など広範な対応を目指す>

 新操短制度は、企業の操業短縮により削減された賃金を、政府が補助金により補填(ほてん)するもの。旧操業制度は20129月、工業生産高および工業新規受注が前年比マイナスを示す経済状況の中で導入され、201411月に申請受け付けを終了した。この旧操短制度では、支援対象が売上高20%以上の減少および被雇用者の労働時間2060%の減少を記録した企業に限られ、余剰人員を対象とした研修実施が義務付けられていた(2012年8月30日記事参照)

 

 今回導入される新操短制度は、もともとEUとロシアによる相互の経済制裁措置の影響で経営状態が悪化した企業の助成を目的として、201411月に内閣が決定した。しかし、経済制裁の影響は今のところ限定的で、企業の操短制度早期再開を求める声はメディアでも下火になっていた。実際、工業生産は2015年に入って毎月、前年比増を示しており、6月は前年同月比8.1%増加した。また工業新規受注も順調で、6月は10.3%増えた。

 

 そのため、今回の法律成立に際して、内閣は声明の中で、ロシアによる経済制裁の影響で経営悪化した企業をターゲットにしたものとは説明していない。ボフスラフ・ソボトカ首相は「新制度においては、企業の経営状態のみならず、天候・洪水などの自然災害の影響による余剰労働者も支援対象だ」と述べ、より適用範囲の広い運用を目指した旨を強調している。

 

 また、法律の発効を発布1ヵ月半後の101日付とし、制度運用の詳細および時期は内閣が後に発布する政令により別途定めるなど、現状への緊急対応ではなく、将来を見据えた内容となっている。なお新制度では、余剰人員を対象とした研修実施義務は課せられていない。

 

 制度の概要は以下のとおり。

 

1.支援対象企業

1)製品の販売が一時的に制限、またはサービス需要が制限されることにより、被雇用者に通常の週間労働時間分の職務を分配・供与することができない企業、あるいは悪天候や自然災害により、業務が停止した企業。

2)余剰となった被雇用者に、定められた週間労働時間の最低20%に当たる職務を与えることのできない企業。

3)余剰となった被雇用者に対して、労働法に基づき四半期の平均賃金の60%以上を支給している企業。

 

2.支援条件

1)企業が余剰となった被雇用者に対して、四半期の平均賃金の50%以上の支給を保証すること。

2)支援期間中、企業はその一部の廃止、移転および組織編制を理由とした当該被雇用者の解雇をしないこと。

 

3.支援内容

1)補助金支給対象となる被雇用者の四半期の平均賃金の20%を政府が支給。ただし支給額は、チェコ平均賃金の12.5%が上限。

2)支給期間は上記1.1)の状況が継続する期間。ただし、最長6ヵ月間(1度に限り6ヵ月間の延長可)。

 

4.申請書類

1)上記1.3)の支給額を証明する労働組合との合意書。労働組合が存在しない企業は、労働法に基づき四半期の平均賃金の60%以上を支給していることを記した内規。

2)補助金申請理由および企業が既に実施した措置(労働時間・シフト変更、有給休暇消化など)の詳細な説明。

3)補助金申請対象となる企業の事業所リスト、および対象被雇用者数。

4)上記1.1)の状況克服の見通しに関する説明。

 

5.申請窓口

○管轄労働局

 

6.実施期間

2015101日以降(内閣が政令により決定)

 

<企業団体側は制度の意義に懐疑的>

 2012年の旧操短制度運用の際には、申請条件が厳密過ぎると企業側が不満を表明した。

 

 今回の制度について、ミハエラ・マルクソバー労働・社会福祉相は「現状に迅速かつ効果的に対応して、企業を支援する」と説明、申請手続きの簡素化を強調した。

 

 また、ソボトカ首相は「企業が経営悪化に際して、一時的に解雇の恐れのある正社員を維持することを可能にする制度の創出に成功した」と述べ、新操短制度は内閣の綱領中の最重要事項の1つである「アクティブ雇用支援政策実施」を実現させるものとして、満足の意を表明した。

 

 しかし、企業側からは、新制度の支援内容が魅力に欠ける点が指摘されている。国内雇用者団体である産業連盟は「労働法に基づき、一時的な余剰人員に対して企業は賃金の60%を既に支払っている。一方、操短制度に基づく企業の負担額は賃金の50%。この程度の違いであれば、申請手続きを経てまで補助金を受給しようと思わない」と批判する。

 

(中川圭子)

(チェコ)

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