改正会社法が一部施行、企業活動や投資の拡大狙う

(シンガポール)

シンガポール事務所

2015年08月07日

 改正会社法が7月1日から一部施行されている。在シンガポール日系企業の関心も高いことから、ジェトロ・シンガポール事務所は7月2日、同法に関するセミナーを開催した。講演の中から、日系企業の多くが関係する非公開会社に係る改正点で、かつ施行済みの事項について、概要を報告する。

<改正項目の残りは2016年第1四半期施行予定>

 改正会社法は201410月に成立した。改正項目は200以上に及び、1967年に会社法が制定されて以来、最大の改正となった。改正項目の約40%が71日から施行されており、残りについては2016年第1四半期に施行される予定。

 

 今回の改正の趣旨は、(1)一部の規制を緩和し、企業が柔軟に活動できるようにする、(2)コーポレートガバナンスを強化する、(3)より近代的で透明性の高い会社法とする、の3点に集約され、シンガポールでの企業活動を活発にし、投資を拡大することが狙いとなっている。

 

<「小規模会社」に対する会計監査が免除に>

 改正の目玉の1つが、会計監査の免除に関して新たに「小規模会社(small company)」という概念が導入されたことだ。改正前の会社法(以下、旧会社法)では、年間売上高が500万シンガポール・ドル(約45,000万円、Sドル、1Sドル=約90円)以下の「除外非公開会社」(株主が20人を超えず、かつ全ての株主が個人である非公開会社)を除き、原則として全ての会社に会計監査が義務付けられていたが、今回の改正により、「小規模会社」に該当すれば、株主に法人が含まれていたとしても会計監査が免除されることとなった。

 

 この背景には、「小規模会社」は一般的に市場への影響力が小さく、費用と時間をかけてまで会計監査義務を課す必要性が乏しいという考えがある。会計・企業監督庁(ACRA)によると、約25,000社が「小規模会社」に該当し、会計監査が免除されるものと見込んでいる。

 

 「小規模会社」とは、直近の2会計年度において、以下の要件のうちいずれか2項目以上を満たす会社をいう。

 

1)年間売上高が1,000Sドル以下

2)会計年度末時点での資産総額が1,000Sドル以下

3)会計年度末時点での常勤の従業員数が50人以下

 

 上記の要件は親会社も含めた連結ベースで判断する点に留意する必要がある。例えば、日系企業のシンガポール子会社が上記の要件のうち2項目以上を満たしたとしても、親会社(日本本社)と連結させると要件を満たさない場合は、会計監査が義務付けられる。

 

 なお、会計監査の免除対象であっても、議決権ベースで5%以上の株主の要求があった場合は会計監査を実施しなければならない。

 

<取締役への退職金支給に関する規制も緩和>

 取締役への退職金支給に関する規定も改正されている。旧会社法では、取締役に退職金を支給する場合は、その金額を株主に開示し、株主総会で承認を得ることとされていたが、今回の改正により、(1)雇用契約があって退職金の支給が雇用契約で合意されていること、(2)雇用契約による支払いで前年の取締役報酬の総額を上回らないこと、(3)支払いの前にその金額を含む詳細が株主に開示されていること、の3つの要件を満たした場合は、株主総会の承認を得なくても退職金支給が可能となった。

 

 また、株式取得の際の財務的援助(Financial Assistance)に関する規定の改正にも留意する必要がある。ある者が会社の株式を取得する際、当該会社がその者に対して財務的援助(貸し付け、保証、担保の提供など)を行うことを原則禁止とする規定は、今回の改正により、非公開会社に限り適用対象外とされた。この背景には、非公開会社の株式は小規模かつ限られた範囲で保有されており、株主のコントロールが働きやすいということがある。

 

<カンパニーセクレタリーの常駐も不要に>

 その他、カンパニーセクレタリー(会社秘書役、注)の登記住所での常駐義務が緩和されていることも注目したい。旧会社法では、カンパニーセクレタリーまたはその代理人のうち少なくとも1人は、登記上の事務所に営業時間中は常駐する必要があったが、今回の改正により、登記上の事務所にいる者(従業員)が営業時間中にカンパニーセクレタリーと即座に連絡が取れるのであれば、常駐する必要はなくなった。

 

 以上が71日に施行された改正会社法の概要だが、2016年第1四半期に施行予定の改正項目を含めた改正の全体像はACRAウェブサイトで整理されている。

 

 現在、ACRABizFile(会社法上必要な登記などがオンラインでできるシステム)の大規模改修を行っており、完了は2016年第1四半期となる見込み。一部の改正点の施行が2016年第1四半期となっているのは、これらの改正点が登記に関わるものであり、システム改修の影響を受けることによる。ACRAは施行日の約2ヵ月前には具体的な施行日などの詳細を公表するとしており、ACRAの情報を引き続き注視する必要がある。

 

(注)会社法で全てのシンガポール法人に任命が義務付けられている。業務範囲はACRAに対する登記業務、株主総会・取締役会の招集通知や議事録の作成、法定名簿や登記簿の記帳・保管など。実務上は弁護士や会計士、あるいはカンパニーセクレタリーの資格保有者が任命されることが多い。

 

阿部直樹

(シンガポール)

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