貿易円滑化措置は2016年以降も継続-ASEAN経済共同体発足に向けた進捗と課題(1)-

(ASEAN)

バンコク事務所

2015年08月28日

 第47回ASEAN経済相会合は8月23日に開催され、約4ヵ月後に迫るASEAN経済共同体(AEC)発足に向けた統合措置の進捗状況が報告された。物品貿易の円滑化に関する分野では、域内企業による貿易関連情報へのアクセスの改善のほか、貿易・投資上の問題点を企業がインターネット上で直接申し立てる枠組み構築が検討されるなど、着実な進展がみられる。一方、原産地証明書の自己証明制度やASEANシングルウインドーなど、2015年中の本格導入が難しい措置については、2016年以降の新たな行程表の中で段階的に取り組む方針が示された。AECについて、2回に分けて報告する。

<主要統合措置のうち91.5%が完了>

 823日に開催された第47ASEAN経済相会合で、AEC発足に向けた行程表である「AECブループリント」に沿った進捗の評価、同ブループリントの後継となる「AECブループリント2025」の策定に向けた議論が行われた。

 

 会合後に採択された共同声明によると、AECブループリントの主要506措置のうち91.5%に相当する463項目の措置を達成したことが報告された。4月のASEAN首脳会議の際に発表された達成率90.5%(458措置)と比べ、1ポイント上昇した。残る項目について、年内の達成に最大限の努力を払う一方、2015年中の達成が難しい課題については、ポスト2015の重要課題として、2016年中の完了を目指して取り組みを継続する方針を示した。

 

 中でも柱となる、「単一の生産拠点・市場」を目指すサービス貿易、基準・認証、投資などの主要分野については、実現までに多くの問題が残されていることから、現状を適切に評価し、2016年以降の取り組みにつなげていくことが重要といえる。

 

 なお、201511月に開催される第27ASEAN首脳会議では、AECブループリント上の各種措置の進捗および達成状況を取りまとめた「AECスコアカード」を公表すること、スコアカードと合わせて、AECがもたらすインパクトなどをまとめた包括的なテクニカルレポートとして「ASEAN統合レポート」を発表する予定だ。

 

<原産地自己証明制度は2016年中の導入を目指す>

 物品貿易の円滑化に関しては、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)の原産地証明書の自己証明制度、ASEAN貿易関連情報を集約するASEANトレードレポジトリ、非関税障壁撤廃のための官民合同委員会設置、投資・サービス・貿易に関する新たなオンライン相談メカニズム、ASEANシングルウインドー、などさまざまなイニシアチブを通じた取り組みが進展していると報告された。

 

1)原産地証明書の自己証明制度

 貿易円滑化の関連で、企業が最も高い関心を有する分野の1つが、原産地証明書の自己証明制度導入に関する動きだ。ASEAN加盟国間では現在、ATIGAを活用する際の原産地証明取得手続きを、輸出者の自己申告で行う自己証明制度の導入に向け、2種類のパイロットプロジェクト(第1、第2)が試験的に導入されている。全加盟国間で統一的な自己証明制度について、2015年末のAEC発足までの導入を目指していたが、今回の共同声明では「導入に向けた開発を進めており、2016年中の導入を目指す」と報告された。

 

2ASEANトレードレポジトリ

 域内貿易関連情報のゲートウエーとして、ASEANトレードレポジトリ(ATR)と呼ばれるウェブ版データベースが201511月のASEAN首脳会議に合わせて導入される予定。タイやインドネシアなど主要国は、既に各国版のデータベース(ナショナル・トレード・レポジトリ:NTR)の運用を開始し、その中には各国の関税品目分類表と関税率、自由貿易協定ごとの特恵関税率、原産地規則(品目別)、非関税障壁、関税法および関連規則、各種申請書類などのデータが集約されている。

 

 ATRは各国のNTRをつなぐインターフェースとして機能し、ASEAN加盟国全ての貿易関連情報を、単一サイトへのアクセスで一括入手できる枠組みとなることが見込まれる。中小企業を含む民間企業にとっては、ATRを通じた情報アクセスの著しい改善により、時間と労力の大幅な削減が期待される。

 

3)貿易円滑化共同協議会

 4月の首脳会議でも言及のあった、官民合同による貿易円滑化共同協議会(ATFJCCASEAN Trade Facilitation Joint Consultative Committee)の活動再開が、あらためて確認された。今回の経済相会合の共同声明では、民間企業が求める各種の非関税措置(NTMs)の削減に取り組む機関として、ATFJCCの役割の重要性が強調された。民間企業からの参画を通じ、企業が抱える課題・問題が適切に聴取され、協議会での議論に反映される仕組みづくりが約束された。

 

4)オンラインの課題解決システム「ASSIST

 ASEAN域内に事業展開する企業がビジネス環境上の問題、各種制度の運用上の問題などに関して、ASEAN共通のインターネット窓口に直接申告を行い、回答を求める新たな枠組みの構築を検討していることが報告された。新たなシステムは、「ASEAN Solutions for Investments, Services and TradeASSIST」という名称で運用開始される。ASEANASSISTを通じて寄せられた各種のクレームを受け付け、処理し、回答する仕組みを目指す。

 

 なお、ASEANではかつて、自由貿易協定(FTA)をはじめとする貿易・投資関連制度を企業が利用する上で問題が発生した場合には、インターネットを通じて問題解決を依頼するASEAN 貿易投資紛争解決協議(ACT)のシステムが導入されたが、その実効性の問題から利用が進まず、形骸化した経緯がある。4月の首脳会議では、このシステムを改善して、2015年中の再導入を目指す方針が示されていた。

 

5ASEANシングルウインドー

 通関手続きに関しては、ASEANシングルウインドー(ASW)の早期導入を目指す方針を確認した。ASWとは、各国が貿易・通関手続きの電子化と窓口の一元化を図り、これをASEAN域内で標準化し、加盟国間で電子化情報の相互交換を実現する枠組みだが、現在、各国内で電子化手続きの動きと並行して、一部の書類に限定して加盟国間で相互交換を行うパイロットプロジェクトが順次進められている。

 

 今回の経済相会合では、本格版パイロットプロジェクト(第2弾)の導入開始(注)が確認されるとともに、同プロジェクト実施後の2015年中に、技術面、財務面の双方から、同プロジェクトの評価を行い、本格導入につなげる方針が示された。

 

ASWの取り組みも当面は試験運用の実施>

 そのほか貿易円滑化分野では、陸路での自由な越境輸送などを想定したASEAN通過貨物円滑化枠組み協定(AFAFGIT)の第2議定書の合意、ならびに第7議定書の署名が完了したことを確認し、これらの着実な批准プロセスを通じ、2016年までに域内税関をつなぐ通過貨物パイロットプロジェクトの実施を目指す方針を示した。

 

 それぞれの進捗の中身をみると、2015年中の導入を目指していたASEAN全域での原産地自己証明制度の本格導入が1年先送りされたほか、通関手続きの電子化・一元化を目指すASWの取り組みも、当面は試験運用の実施と評価を2015年中に実施することが目標に設定され、ASWの全加盟国での導入期限については特に言及されていないことが分かる。

 

(注)ASEAN事務局によると、パイロットプロジェクト(第2弾)は、準備が完了した5ヵ国(インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム)間でのテスト(ATIGAフォームDの電子交換)を20158月末から10月まで実施の予定。

 

(伊藤博敏)

(ASEAN)

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