日本の上下水道技術に高い関心-サンクトペテルブルクで「日本の水ビジネスと新技術セミナー」開催-

(ロシア)

ものづくり産業部環境・インフラ課、サンクトペテルブルク事務所

2015年08月07日

 ジェトロは7月7~8日、サンクトペテルブルク市の上下水道事業において日ロ間協力を深めることを目的に、同市内で「日本の水ビジネスと新技術セミナー」を開催した。参加者の日本の技術への関心は高く、特に下水処理技術の説明に熱心に耳を傾けていた。

<現地の上下水道公社とセミナーを共催>

 サンクトペテルブルクは「水の都」と称されるなど、ロシアの中でも水分野で先進的な取り組みを行っている。バルト海地域の海洋環境の保護に関する条約(ヘルシンキ条約)を順守するべく、周辺諸国とも協力しながら下水分野を中心に状況改善に取り組んでいる。

 

 住民約500万人に上下水道サービスを提供しているのは、国有企業のサンクトペテルブルク上下水道公社(以下、ボドカナル)だ。上水の歴史は1858年に、下水の歴史は1770年にさかのぼる。ボドカナルは2030年までの上下水道発展計画を策定、さらなるサービス改善のため、給水場と下水処理場の建設や改修、上下水道管の補修などに取り組んでいくという。

 

 こうした状況下、ボドカナル幹部から日本の技術導入への関心が示されたことを受け、ジェトロはボドカナルと共催で「日本の水ビジネスと新技術セミナー」を開催した。ジェトロがボドカナルとセミナー開催で協力するのは3回目。

 

 同セミナーでは、ボドカナルの管理職から現場の技術者まで計73人に対して、日本の上下水道技術を紹介した。講演内容は、下水汚泥の有効利用や処理済み汚水の消毒システム、下水管の管路更生工法から金融支援体制まで、幅広い分野に及んだ。

<日本の下水汚泥処理と消毒技術導入に前向き>

 質疑応答では、下水汚泥を有効利用する技術について質問が相次いだ。「汚泥焼却後の灰は埋め立て地に放置している状況。ボドカナルの埋め立て地の使用率は99%を超えており、汚泥の再利用が急務となっている。日本企業の、汚泥を炭化燃料化する技術、園芸土や道路路盤材として再利用する技術をぜひ取り入れたい」とボドカナルのオリガ・ルブリョフスカヤ・ビジネス発展副部長は語った。また、「汚水の消毒に紫外線(UV)を用いているが、放流水の19%にしかUV処理を施せていない。日本の水道事業者が開発した低コストで即効性のある臭素系消毒剤の導入を検討したい」と、下水の消毒についても新技術導入に前向きな姿勢を示した。

 

 セミナー修了後、日本からの専門家など関係者はサンクトペテルブルク市の下水処理場と浄水施設を見学した。両施設の設備は日本で導入されているものと同レベルであり、「浄水施設の排オゾン装置や活性炭を用いた複層ろ過設備など、日本でも使用されている近代的な設備が多くて驚いた」との声が専門家から寄せられた。また、ボドカナルのタチアナ・クズミナ上下水道システム発展副局長からサンクトペテルブルク市の上下水道における課題の説明があった際には、日本側の専門家も熱心に聞き入っていた。同市が抱える下水汚泥の有効利用や汚水の消毒、下水管の管路更生などの課題は、日本が克服してきた課題とよく似ている。日本の上下水道事業者の持つ経験・技術と同市の課題をマッチングすることで、ビジネスにつなげる余地がありそうだ。

<ロシアビジネスには官民協力が重要>

 サンクトペテルブルク市は日本の技術導入や技術協力に積極的だ。既に日本の水道事業者による下水管の管路更生工法導入や計測機器の実証テストが行われていることからも、日本の技術に一定の需要があることが確認できる。一方、日本企業のビジネス展開で重要となる、法規制や商慣習などに関する情報は少なく、かつロシアが欧米企業や国内企業を重視する傾向があったことなども相まって、これまではビジネスが実現しにくかったというのが現状だ。

 

 今後、日本の上下水道事業者がロシアでプロジェクトを進めていくためには、実地調査や現地事業者との共同研究を通じて需要の掘り起こしを行う必要があるだろう。民間企業が単独で動きにくい市場であるがゆえに、インフラ輸出を目指す官民が一体となって協力する必要がある。その第一歩として、実地調査などにおける資金面での支援・協力体制が不可欠だとの声が日本側の専門家から上がっていた。

 

(山川美喜、宮川嵩浩)

(ロシア)

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