景況DIは悪化、非製造業では最悪期を脱したとの見方も-在ロシア日系企業景況感調査(1)-

(ロシア)

モスクワ事務所、サンクトペテルブルク事務所

2015年05月29日

 ジェトロは4月下旬、在ロシア日系企業景況感調査を実施した。前回調査(2014年11月)の後、通貨ルーブルの大幅下落を主因とし、景況DIは悪化した。製造業は厳しい状況にあるが、原油価格やルーブルレートの持ち直しにより、非製造業では最悪期を脱したとみる企業が出ている。景況感と2015年後半~2016年のロシアの事業展開見通しを3回に分けて報告する。1回目は景況および景況見通しについて。

<楽観視できずとの声が多数>
 今回の調査はモスクワ・ジャパンクラブ商工部会とサンクトペテルブルク日本商工会の協力の下、4月16日から24日にかけて、モスクワ周辺、サンクトペテルブルク周辺、沿ボルガ地域などに所在する日系企業・団体を対象に実施し、109社から回答を得た。回答企業のうち、製造業は14社、非製造業は95社だった。

 自社の景況(最近の状況)DI(注)は、前回調査(2014年12月25日記事参照)に比べ9ポイント下落し、マイナス31となった(図1参照)。2014年末のルーブルの大幅下落もあり、景況DIは2014年6月以降、悪化が続いている。非製造業に比べ、製造業のDIが厳しい状況となっている(表1参照)。2014年末の駆け込み需要の反動による買い控えや需要減の影響が生じつつも、想定よりは上振れしているとの声もあった一方、依然として不透明な状況で、楽観視はできないといったコメントが多数みられた。

 「良い」と回答した企業からは、主に以下のコメントがあった。

○3月8日の国際婦人デーに向けての需要が予想以上にあり、計画を上回った。しかし、依然として小売り側は今後の市場の不透明感から仕入れを抑制する傾向にある。
○2014年12月の異常事態・混乱を除くと、当社取扱商品(通信、自動車部品材料など)は需要が底堅く、現時点では2014年前半と同様の受注がある。今後、為替や景気の影響が出てくるのかもしれないが、現在の為替の戻し方をみて、ある程度楽観視している。
○ロシアへの輸出は厳しいが、ロシアからの調達が増加傾向。

 一方で、「さほど良くない」「悪い」と回答した企業からは、主に以下のコメントが寄せられた。

○外部環境を踏まえ、(ルーブルの)相当な落ち込みを覚悟していたが、想定よりは上振れする結果となった。ただし、楽観的な見通しを持てるような状況ではなく、外部環境の変化を見極めながら、臨機応変に対応をしていく予定。
○2014年末のルーブル暴落に伴うパニック買い後の在庫過剰とルーブル高期待による買い控えで、この四半期(2015年1~3月)の業績は不振。
○ルーブルレートの関係で、常連顧客からの発注がやや鈍っている。
○2015年の年明け以降は、とにかく在庫の圧縮、価格の値上げに取り組んできた。一方で、足元では為替が若干戻ってきており、2015年後半に向けた価格・発注計画の見直しの要否を協議中。ただし、まだ不透明感が強く、難しい判断を迫られている状況。
○顧客の9割が大学および研究所などの国家機関なので、為替下落による経済危機に伴って、全ての客先が予算不足により買い付けを見送っている。
○2014年末からのロシア景気低迷の影響が継続している状況。最近は客先の資金繰りも若干好転しているようだが、2014年10月以前の状況には程遠い。住宅インフラについては、2015年3月から需要期を迎え、受注は少し増加傾向だが、前年比では減少しており、今後も期待できない状況。
○2014年末の状況よりは改善が認められるものの、依然として景況感が良いとは言えない。改善点としては、需要自体は減少しているものの、一部産業製品の輸入停止による自国生産分の増加が認められること、またルーブル安に伴い、他国に対し競争力が上がったことが挙げられる。

<依然厳しい製造業の景況見通し>
 自社の景況見通し(2ヵ月後の状況)DIはマイナス28で、前回より8ポイント回復し、2013年2月以来の改善となった(図2参照)。ただし、製造業の見通しは依然厳しい状況にある(表2参照)。

 「さほど良くない」「悪い」と回答した企業からは、主に以下のコメントがあった。

○駆け込み需要の余韻もあり2ヵ月後までは何とか見通せるが、7月以降どうなっていくのか全く不明。ルーブルが大幅下落した時点の為替レートに基づく仕入れ・在庫に対し、本格的に売らなければならない時期にどれだけ売り上げが確保できるか分からない。
○自動車の新車販売における大幅な落ち込みが予想される中、顧客の販売見通しも悲観的。ルーブル安による輸入製品の値上げは競合他社でも同様に進められており、顧客にも受け入れられてはいるが、2015年度は全般的に厳しい景況が予想される。
○2014年12月までの需要前倒しの反動を受け、2015年1月以降、市場の需要は継続して低水準で推移。また、同月以降のルーブル高もあり、多少の改善傾向はみられるものの、当面は大きな回復は見込めないという前提でビジネスを行っている。ただし、2014年末に懸念していたほどには市場は混乱しておらず、現時点では想定範囲内での動きだと認識している。
○2014年以降、新規引き合いが激減。商品の製造期間が1年以上と長期にわたるため、2016年に影響が生じる。

(注)DIとはディフュージョン・インデックス(Diffusion Index)の略。有効回答数に占める「良い」(または「上昇」「不足」「改善」)と回答した企業の比率から、「悪い」(または「下降」「過大」「悪化」)と回答した企業の比率を差し引いた数値。

(齋藤寛、宮川嵩浩)

(ロシア)

ビジネス短信 87f305b7842e57cb