米国との関係改善に動き出すルセフ大統領-米州首脳会議の成果を評価-

(ブラジル)

サンパウロ事務所

2015年04月21日

 4月10日から11日にかけて開催された第7回米州首脳会議に出席したルセフ大統領は、59年ぶりに実現した米オバマ大統領とキューバのラウル・カストロ国家評議会議長の首脳会談を「冷戦時代の負の遺産が解消された」と称賛した。ベネズエラやキューバと良好な関係にあるブラジルは、米国が両国に対して科す制裁に否定的な態度を示している。2013年に米国によるルセフ大統領の通話盗聴が明るみに出て以降、冷え込んだ米国との関係改善を視野に入れてルセフ大統領は米州首脳会議の期間中にオバマ大統領と首脳会談を行い、6月末ごろに訪米し、オバマ大統領と会談する意向があると伝えた。

<歴史的会談を歓迎するも経済制裁には批判的>
 当地報道によると、オバマ大統領とカストロ国家評議会議長の首脳会談開催を受けて、ルセフ大統領は「両国間における過去の確執や、互いの国に対する偏見を捨て、互いを認め合うことが両国の関係改善のための第一歩となる」と歓迎し、「中南米地域全体と北米の新たな関係構築を期待する」とコメントした。

 他方、2015年3月、人権侵害があったとして米国が行ったベネズエラ政府高官の資産凍結といった制裁には批判的な態度を示した。中道左派の労働者党(PT)率いるブラジルとベネズエラが、これまで良好な関係を築いてきた(2014年10月30日記事参照)ことが背景にある。

<医師受け入れでキューバと交流深める>
 ブラジル政府は、北部や北東部といった、特に貧困層が多く、医療サービスが不足している地域の医療環境改善のため、医師の拡充を図る「マイス・メジコス」プログラムを2013年以降実施している。このプログラムがキューバとの関係強化にも役立っている。

 医師が不足しているため、同プログラムにより、キューバを含む諸外国からの医師を受け入れている。アルトゥール・チオロ保健相によると、2014年7月時点でおよそ1万1,000人のキューバ人医師が同プログラムに参加し、ブラジル国内の各都市へ派遣されている。ただし、同プログラム参加医師のうちキューバから受け入れる医師の数が多過ぎるとも報道されており、米国の経済制裁を受けるキューバへの援助の一環ではないか、との批判も一部にある。

<冷え込んでいた米国との関係改善に向けた新たな動きも>
 米州首脳会議の会期中、ルセフ大統領はオバマ大統領はじめ、アルゼンチンのクリスティーナ・キルチネル大統領、メキシコのエンリケ・ペニャ・ニエト大統領らとも会談した。

 大統領府によると、4月11日に行われたオバマ大統領との会談では、再生可能エネルギーなどのエネルギー問題、気候変動から科学技術革新に至るまで、幅広い分野にわたって協議した。また、2015年6月末に、ルセフ大統領がワシントンを訪問する方向で調整する旨も伝えられた。

 米国とブラジルは、2013年に米国国家安全保障局(NSA)がルセフ大統領の通話やメールなどの通信を盗聴していたことが明らかになったことで、ルセフ大統領が当時予定した米国訪問を中止した経緯があり、両国の関係は冷え込んでいた。この会談で和解ムードが生まれた格好だ。

 経済が低迷するブラジルでは、米国との関係改善で輸出を少しでも増やしたい思惑が見え隠れする。ブラジルの2014年の実質GDP成長率は0.1%。4月10日付の中央銀行の週次レポート「フォーカス」によると、2015年の成長率はマイナス1.01%と予測されており、経済は低迷している。2000年以降黒字を続けてきた貿易収支も、2014年は約40億ドル(FOB)の赤字に転落し、2015年第1四半期も約56億ドルの赤字となった。

 米国は、ブラジルにとって中国に次ぐ輸出相手国であり、2014年は輸出全体の12%を占めた。2014年の米国への輸出のうち54%は工業製品、21%が半製品であり、ブラジルの工業製品にとり、昨今の急激なレアル安で輸出に追い風が吹いている中、政府としては少しでも輸出を増やす方策を取りたいところだ。

(辻本希世)

(ブラジル)

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